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    Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

    Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー







     若い4Gamer読者のなかには,そもそもその存在を知らない人や,名前しか聞いたことがないような人もいるとは思うが,年季の入ったゲーマーにとって「ウィザードリィ」(Wizardry)は,いまなお燦然と輝くRPGの金字塔であり,“ダンジョンRPGの代表作”である。

    Apple II版「Wizardry #1 - Proving Grounds of the Mad Overlord」。すべてはここから始まった
    画像集#054のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
     第一作のオリジナルとなるApple II版(1981年)……はさすがにコアすぎるが,日本語にローカライズされたパソコン版(1985年)のあたりから,ウィザードリィは日本のコアゲーマーの間で注目を集めていた。
     その後ファミリーコンピュータ版(1987年)で,当時のウィザードリィの常識を打ち破る斬新なカルチャライズが施され,日本における知名度が一気に広がることになる。さらに,日本独自展開となる「ウィザードリィ・外伝」(1991年)もシリーズ化され,そのブランドは盤石のものとなった。

     「エンパイア」や「エクス」,「サマナー」,「BUSIN」などウィザードリィの名を使っている日本独自の作品群はもちろん,「世界樹の迷宮」「エルミナージュ」「デモンゲイズ」「剣と魔法と学園モノ。」「迷宮クロスブラッド」「剣の街の異邦人」などの進化系Wizと呼べるものまで含めると,さまざまなダンジョンRPGが各社から登場しており,日本では一定の人気を集めるジャンルとなっている。その源流がウィザードリィであることに異を唱える人はいないだろう。

    日本ではウィザードリィの名を冠したシリーズ作だけでなく,これに影響を受けて作られたダンジョンRPGも数多く登場している。そのこともあってか,日本におけるダンジョンRPGの人気や知名度は他国と一線を画している。なお本稿に掲載している旧作のパッケージやスクリーンショットは,編集長Kazuhisaや筆者の私物を撮影したものであり,個人のコレクションなのでやや汚れているところは御容赦いただきたい
    画像集#072のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

     そんなダンジョンRPGのシリーズ最新作が,このたび新たに登場する。それが「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版である。
     実はこれ,完全新作というわけではなく,2006年に発売された同名タイトルのリニューアル版だ。しかしプログラムは完全に作り直されているほか,ユーザーインタフェースを刷新し,末弥 純氏によるモンスターグラフィックスも1枚1枚描き直されて高解像度に対応するなど,2021年に登場するPCゲームにふさわしい仕様となっている。
     また,一口にウィザードリィといってもその内容は千差万別なのだが,本作はオリジナルの時点で“原点回帰“を標榜していた作品であって,昔ながらのファンにとっても要注目の一作であることは間違いない。

    「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の,開発中スクリーンショット
    画像集#001のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

     そして,この「五つの試練」がファンにとって見逃せない大きな理由はもう一つある。
     前述のように,日本で独自進化を遂げたウィザードリィの中でも名作の誉れ高い作品といえば,恐らく誰に聞いても名前が挙がるのが,ゲームボーイ版の“外伝”シリーズだろう。そして「五つの試練」は,その外伝シリーズにおける中心人物でもあった徳永 剛氏金田 剛氏が開発作業を行っているのだ。
     そこで今回4Gamerは両氏に取材を行い,過去のシリーズ作も含めたっぷりと話を聞いてきた。時世を鑑みチャットのインタビューとなったが,以下の本文はそれを読みやすく再構成したものとなっている。

     ウィザードリィの日本独自展開における第一人者である両氏が,ここまで多くを語ったのは今回が初かもしれない。長らくウィザードリィから離れている歴戦の冒険者も,ぜひ最後まで目を通してほしい。

    画像集#002のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

    ・金田 剛氏:
     59Studio 代表
     ウィザードリィの代表作:「外伝1~3」「戦闘の監獄」

    ・徳永 剛氏:
     「五つの試練」メイン開発者
     ウィザードリィの代表作:「外伝2~4」「DIMGUIL」「戦闘の監獄」

    4Gamer:
     本日はよろしくお願いします。
     今回は「ウィザードリィ外伝 五つの試練」だけでなく,お二人がこれまでウィザードリィにどのように関わられてきたのかも含め,時間の許す限り詳しく聞かせてください。

    金田 剛氏(以下,金田氏):
     分かりました。どのあたりから話しましょうかね。

    4Gamer:
     せっかくなので,お二人がゲームに興味を持たれたきっかけから,順にお願いしてもいいですか?

    金田氏:
     私は幼少期の頃から根っからのゲーマーで,お小遣いは全部ゲームセンターに消えてしまうような日々を過ごしていました。そして小学6年生のとき,お年玉で雑誌の「I/O」(アイオー)※1を買ったのがきっかけで,パソコン※2にも興味を持つようになったんです。
     地元のパソコンショップに入り浸り,高校生になる頃には,そこでゲーム開発のアルバイトもしていました。

    ※1
    日本初のマイコン専門誌。1976年10月創刊。名前の由来は「Input/Output」で,いまIT業界にいる年齢高めの人達は,みな子供のころお世話になっているのでは……。


    ※2
    今で言う「パソコン」が登場したばかりのこの時代,まだPCは「マイコン」(マイクロコンピュータの略)と呼ばれていた。NECのPC-8001,松下電器のJR-100,富士通のFM-7,シャープのMZ-80K……などが電器屋さんの店頭を賑わせていた1970年~1980年代には一般的だった呼称だ。ちなみにこのころの社会人の初任給は大卒で10万円くらいで,マイコンは1台が20万円弱。


    4Gamer:
     当時はパソコンショップが自前でゲームを開発して,そこから会社として大きくなっていったケースがありましたね。有名なところだと,日本ファルコムとか。

    金田氏:
     そうなんですよ。本業でパソコン本体を売りつつ,ソフト開発で副収入を得るというのは,ショップにとっても美味しいビジネスモデルだったと思います。しかもショップに来る客が,プログラムまで作ってくれるわけですから(笑)。
     私もそういった客の1人で,どんどんゲーム開発にのめり込んでいきました。その当時,Apple II版のウィザードリィにも触れていたのですが,英語版だったので面白さがさっぱり分からなかったですね。

    4Gamer:
     Apple II版が発売された1981年の時点では,ほとんどのゲーマーにとって“コンピュータRPG”は未知のジャンルでした。英語版であることを差し引いても,とっつきにくさを感じてもおかしくなさそうです。

    ファミコン版のウィザードリィ(1~3)
    画像集#055のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
    金田氏:
     でも,その後に新卒でアスキーに入社して,ファミコン版の1※3に触れたときも,あまりピンと来なかったんですよ。キャラクターを作ってパーティを組んで,地下に潜るという一連の流れも,正直いって面倒くさいなって(笑)。

    ※3
    日本におけるウィザードリィの人気を決定付けた一作。BGMに羽田健太郎氏,モンスターイラストに末弥 純氏を起用し,ゲームの内容とバランスはそのままに,ディスクアクセスのない家庭用ゲーム機で,素晴らしいダンジョンRPGが楽しめた。ほぼ同じタイミングで「ファイナルファンタジー」が発売されてしまい,やや影に隠れてしまったのが悔やまれる。


    4Gamer:
     では,そんな金田さんが,どういった経緯で開発者としてウィザードリィに関わるように?

    金田氏:
     アスキーの開発部でいくつかのタイトルを担当したあと,ゲームボーイ向けのウィザードリィの開発プロジェクトが立ち上がったんです。そこにプログラマとして配属されました。
     つまり,最初からウィザードリィが好きで好きで仕方ないという程ではなかったんです。せっかくのインタビューなので,劇的な出会いのエピソードなどを話せれば良かったんですが,なんだかすみません(笑)。

    4Gamer:
     いえ,そういった状況で開発者として参加して,あの外伝1でメインプログラマの重責を果たしたのはすごいなと思いました。
     外伝1に関しては後で詳しく聞きますので,いったん徳永さんのお話もお願いします!

    徳永 剛氏(以下,徳永氏):
     私は子供の頃から,もっぱらパソコンゲーム専門でした。
     当時はダンジョンRPGのジャンルが盛り上がっていて,PC-8801版のウィザードリィをはじめ,「ザ・ブラックオニキス」※4「ザ・ファイアクリスタル」など,どっぷりとハマっていましたね。

    ※4
    日本におけるコンピュータRPGの最初期の名作で,最初はPC-8801用として発売された。ゲームデザイナーは,ザ・テトリス・カンパニーのヘンク・ロジャース氏(※関連記事)だ。「ザ・ファイアクリスタル」はその続編。イロイッカイズツ。


    4Gamer:
     当時のダンジョンRPGは謎解きが難しいうえ,攻略情報を探すのも苦労しました。徳永さんにとって,どういった部分がハマる要因だったんでしょうか。

    徳永氏:
     確かに難しかったですが,それだけに,クリアしたときの快感がたまらなかったですね。ハードルが高ければ高いほど燃えるタイプといいますか,試行錯誤そのものを楽しんでいました。
     今でこそ,ネットで調べれば攻略情報は一発で分かりますが,攻略のプロセスを楽しむという意味では,ちょっと寂しい部分も感じます。当時を振り返ると,私は幸せな時代に生まれたんだなと思いますね。

    4Gamer:
     その流れで,自然とゲーム業界にも興味を持たれたのでしょうか。

    徳永氏:
     はい。パソコンゲーム,とくにダンジョンRPGものに関わる仕事に就きたいとは考えていました。となると,やっぱりウィザードリィを展開するアスキーしかないなと。そして金田さんの2年後くらいに,新卒で入社しました。
     アスキーでは最初は宣伝部に配属され,古くからのウィザードリィファンならご存じであろう須田PINさんと一緒に仕事をしていました。

    4Gamer:
     須田PINさんはウィザードリィの伝道師として,雑誌などにも多く登場されていましたね。

    徳永氏:
     当時の宣伝部のメンバーは,みんなウィザードリィが大好きで。
     外伝1に「歴戦の鎧」※5というレアアイテムが登場するのですが,これがどうしても入手できなかったんです。それを見かねた須田PINさんが,外伝1のキャラクタ転送機能を使って,アイテムを譲ってくれたのを今でもよく覚えています。

    ※5
    呪われたアイテムなのでコレクションにしかならないが,とにかくレア。


    4Gamer:
     宣伝部にいた徳永さんが,どういった経緯で開発者になったんでしょうか。

    徳永氏:
     当時のアスキーは,リリースされるタイトル本数にばらつきがあって,宣伝部のスタッフが手持ち無沙汰になることがありました。また,社内には開発や販売だけでなく,出版などを含めた多数の部署があり,横のつながりも結構あるんですよ。
     そういったなか,何か自分に手伝えないかと積極的に動いていたら,開発部でユーザーサポートの人手が足りないことが分かり,異動希望を申請しました。最初は,たとえばパソコン版の「Bane of the Cosmic Forge」(BCF,通称6)※6が起動できないというお客様に対し,Config.sysの書き換え方法を教える業務などを行っていました。

    ※6
    #5までの,古き良き3DダンジョンRPGから大きく趣を変えた,新時代のWizardry。タイトルには「#6」と入っていないため,一般的にはBCFと呼ばれる。壁面にもグラフィックが描き込まれ,モンスターはアニメーションし,種族も魔法体系も大きく変わった。今でもGOG.comSteamなどで遊ぶことができる。


     そうこうしているうちに開発部の人達に顔を覚えられて,外伝2のプロジェクトが立ち上がるタイミングで,「そんなにウィザードリィが好きなら,開発もやってみない?」とお声掛けしていただきました。

    4Gamer:
     やっぱり遊ぶだけでなく,直接開発したいという想いもあったのでしょうか。

    徳永氏:
     そうですね。当時は憧れの仕事に就くことができて,とても嬉しかったです。


    「ウィザードリィ・外伝1 女王の受難」
    (ゲームボーイ,1991年)


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    4Gamer:
     それでは,ここからは各タイトルのエピソードを順番に聞かせてください。

     まずは外伝1ですが,これは携帯機であるゲームボーイ向けに初めて発売されたウィザードリィです。従来のような移植作ではないオリジナルの作品で,しかも当時のアスキーは,スーパーファミコン版「5」の開発作業も並行していました。
     外伝1の開発環境は見るからに大変そうですが,金田さんから見て,当時はいかがでしたか?

    金田氏:
     ゲームボーイは対象年齢層が比較的低く,外伝1の最初のコンセプトは,彼らに向けた「入門用のウィザードリィ」というものでした。ファミコン版ウィザードリィの販売成績は好調でしたが,長期的に考えると,新たなプレイヤー層を開拓する必要性もありましたので。

     ところが,ゲームボーイ向けの仕様を突き詰めていくうち,携帯ゲーム機とウィザードリィの親和性が思いのほか高いことが分かったんです。プロジェクトを立ち上げた三田さん(編注:元アスキーの三田 浩ディレクター)や,開発協力をしていただいたゲームスタジオ※7の皆さんも根っからのウィザードリィ好きなので,次第に従来のファンも取り込む方向へとシフトしていったのを覚えています。

    ※7
    かつて存在したゲーム開発会社。あの遠藤雅伸氏が代表をつとめており,ファミコン版ウィザードリィだけでなく,「イシターの復活」や「カイの冒険」など名作に多く携わっていた。現在ある同名の開発会社「ゲームスタジオ」は,紆余曲折あって流れを引いた別会社……となるのだが,遠藤氏ら主要スタッフは現在も在籍している。


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    4Gamer:
     外伝1は,最初のボスモンスターを倒す地下6階までは比較的易しめでしたが,その先に同規模のダンジョンがあって,そちらは一転して歯ごたえのあるものとなっていました。確かに,未経験者と経験者の両方が楽しめるバランスだったと思います。
     ちなみに,改めてエンドクレジットを確認してみたんですが,外伝1のプログラマは金田さん1名だったんですか……?

    金田氏:
     音楽やデータの打ち込みは別の人が担当していますが,ゲームプログラミングという意味では私一人でしたね。アスキーに就職するまではパソコンでしか開発をしたことがなかったので,最初は大変でした。
     というのも,外伝1の基本システムはパソコン版の「5」がベースになっているのですが,このプログラムが書かれている言語のPascalに私は精通していなかったんです。※8

     そこで,三田さんがウィザードリィのロジックを日本語でドキュメント化してくれて,それを参考にプログラムをゼロから作りました。そのため外伝1はロジック以外,すべてオリジナル設計となっています。

    ※8
    オリジナルであるApple II版のWizardryも,Pascalで書かれている。


    4Gamer:
     あのプログラムを,ゼロからですか……。
     ゲームボーイ版ではメッセージが4行しか表示できてなかったですし,解像度や色数などの制約も大きかったんですよね,きっと。

    金田氏:
     ええ,そうですね。
     外伝1の戦闘画面ではモンスターが2体表示されますが,実はこれはまともなプログラム手法では実現不可能なんです。スプライトだけでなく,本来なら背景に用いるBG(バックグラウンド)も用いてモンスターを随時入れ替えるなど,無理矢理に動かしていました。

    徳永氏:
     私が開発部に来たとき,ゲームボーイ版ではダンジョンの内部を線ではなく画像として描画していたのに驚かされました。ただでさえ少ないゲームボーイのROM容量で,よく実現できたなと。

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    金田氏:
     一方で,戦闘中に魔法エフェクトを盛り込むなど,演出面にもこだわりたかったのですが,それらはすべて三田さんに却下されました。三田さんは,ウィザードリィとしての手触り感を大事にしていて,それが少しでも損なわれる要素はいらないというスタンスだったんです。
     私は当時,「せっかくカッコいいエフェクトを作ったのに……」とガッカリしていたのですが,いま振り返ると確かにウィザードリィには不要でした。


    「ウィザードリィ・外伝2 古代皇帝の呪い」
    (ゲームボーイ,1992年)


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    4Gamer:
     続いて,翌年の1992年には「外伝2」が発売されます。
     このタイミングで,ユーザーサポート業務を行っていた徳永さんが,ディレクターとして参加されていますね。

    金田氏:
     外伝1が各方面で高い評価をいただいたので,社内ではさっそく続編を作ろうということになりました。
     私はプログラマに加えて,プロジェクトを管理する立場でもあったので,最初にスケジュールや予算,売上予測などを立てるわけです。で,今回は外伝1という手本があるので,それほど大きな手間を掛けずに進められるだろうなと。
     また,“ウィザードリィ好き”という触れ込みで徳永さんがやってきたので,彼にシナリオなどを任せようと考えていました。

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    4Gamer:
     実際に開発スタッフとして参加された徳永さんにとっては,どんな印象だったんですか?

    徳永氏:
     最初はシナリオの執筆やマネージメント全般など,開発業務のかなりの部分を担当しろと指示されて驚きました。確かに,今回は外伝1という手本があったものの,プログラムひとつを取ってもそのまま使うわけにはいきません。せめてシナリオは,外部の専門家にお願いしたいと申し出ました。

    金田氏:
     当時は,そのことで揉めましたね。私としては,徳永さんが来て作業工数を抑えられると期待していたのに,シナリオライターさんを起用したいと言い出すわけですから。

    4Gamer:
     取材に向けて下調べを行っている最中,外伝2の際に「徳永さんがシナリオを作りたいと希望していたけど却下された」という逸話も目にしたのですが,ちょっと食い違ってますね。

    金田氏:
     むしろ,逆ですよ。

    4Gamer:
     なるほど。最終的に,外伝2のシナリオはベニー松山さんが担当されていますが。

    ベニー松山氏が1989年に執筆したゲーム攻略本の名著「ウィザードリィのすべて」
    画像集#008のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
    徳永氏:
     当時のベニー松山さんはゲームの攻略方面で有名で,またご存じのとおり,ウィザードリィの小説「隣り合わせの灰と青春」も執筆されています。まだ学生でしたが,「WIZ91」(ウィザードリィ10周年記念で開催されたオフラインイベント)でお会いしたところゲーム業界にもお詳しいことが分かり,開発前にあらためて打診しました。

     ただ,社内ではシナリオライターさんを起用する許可が下りたものの,プロジェクトとしてのスケジュールや予算などは決まっており,そこまでは変えられなかったんです。
     そういったなか,ベニー松山さんの負担を少しでも減らせないかと思い,マップデザインや宝箱のデータ作成を担当したものの,結果的にご迷惑をお掛けしてしまいました。

    4Gamer:
     予算などの問題を外部に話すわけにもいかないですしね。心中お察しします。
     でも,結果としてリリースされた外伝2は,ゲームバランスを含めて非常によくまとまっていたと思います。個人的には,ゲームボーイの外伝シリーズで最も好きな作品です。

    金田氏:
     そうですね。当時の私は管理職として反対しましたが,発売後の評価などを見ると,ベニー松山さんを起用するという徳永さんの判断は正しかったです。

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    「ウィザードリィ・外伝3 闇の聖典」
    (ゲームボーイ,1993年)


    4Gamer:
     その次の「外伝3」では,徳永さんがディレクターだけでなく,ペンネームのAgan-Ukot名義でシナリオ制作までも兼務しました。※9

    ※9
    パッケージの裏には本名の「徳永 剛」が書かれている。
    画像集#061のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー画像集#067のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

    徳永氏:
     外伝2よりも更に納期と予算を削られて,いよいよ内製でやるしかないという状況でしたね。私も腹をくくりましたが,それだけに,思いっきりやれたという手応えがあります。
     ゲームバランス等で詰めが甘い部分があるものの,今も一番好きなウィザードリィですね。

    4Gamer:
     外伝3はゲームシステムやストーリーなどで,チャレンジングな試みの数々が印象に残っています。まさか,あのリルガミン※10が崩壊するとは。

    ※10
    ウィザードリィ#1から存在する街の名前


    徳永氏:
     当時は,ゲームとしての新たな“売り”をどうやって作ろうか四苦八苦していました。普通にシリーズ作を続けるとマンネリ化してしまい,一方でファンの要求も次第に高まりますから。
     そういったなか,「廃墟になったリルガミンを,実際に歩き回れたら新鮮だろうな」と思いついたんです。皆さんの思い入れがある場所なのでおこがましさを感じつつも,インパクトを出したくて,あのようなシナリオになりました。

     また,私はBCFや「Crusaders of the Dark Savant」(CDS,通称7)※11も好きなので,あれに登場する種族や職業,屋外マップなどの要素も取り入れたいな,と。軽い気持ちで企画した結果,データ量が膨れあがり大変な目に遭ってしまうわけですが……。

    ※11
    BCF同様ナンバリングが振られていないが,実質7作目。通称「CDS」。BCF同様の,旧来作から大きく趣を変えた作品であるだけでなく,ゲーム序盤から宇宙船やら別な星やらが登場し,SF色が非常に強くなっているのが大きな特徴。今でもGOG.comSteamなどで遊ぶことができる。


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    4Gamer:
     BCFのパソコン版がリリースされたとき,従来のファンから大きな反発があったことを覚えています。シナリオも含め,外伝3で意欲的な要素を取り入れることに対し,プレッシャーなどはありましたか?
     個人的には,あくまで外伝シリーズなんだから,そのときの開発者が自由に作ればいいと思っていますが。

    徳永氏:
     長年人気のあるシリーズは,ファンにとって愛着があるものです。やっぱり,意欲的な新要素を入れると決めた時点で,抵抗を感じる人が出てくるのは覚悟しなければならないでしょうね。

    4Gamer:
     なるほど……。
     あとは外伝3といえば,対戦機能も印象に残っています。

    徳永氏:
     ありましたねぇ。予算も時間もROM容量もないなか,作るのに苦労したのをよく覚えています。

    金田氏:
     当時の外伝シリーズは,続編を作るたびにデータ量がどんどん増えていきました。一方で,ゲームボーイ用のROMの製造原価は,ちょっと容量が上がるだけで数百円も高くなってしまうんです。

    徳永氏:
     しかも,ROMの製造原価が上がっても,パッケージの販売価格はそう簡単には変えられません。じゃあどうするかというと,開発費を削減するしか手は残されていないんですね。外伝シリーズの後期は,どうやってコストカットするかで悩みっぱなしでした。

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    4Gamer:
     外伝シリーズは毎回ボリュームがたっぷりで,いちプレイヤーとしては単純に楽しんでいましたが,開発する側は色々と苦労をされていたのですね。

    金田氏:
     あとは,外伝3が発売される頃は,ゲームボーイの市場もかなり縮小していて,販売本数の面でも苦戦を強いられました。
     でも,外伝3のプロジェクト終了後に発売された「ポケットモンスター 赤・緑」(1996年)が大ヒットして,ゲームボーイの市場が復活するんです。この時私はもうウィザードリィの開発現場から離れていましたが,もし当時のノウハウを引き継ぐ人が社内にいたら,「外伝4」以降もゲームボーイ向けに展開していたかもしれません。

    4Gamer:
     この頃の金田さんは,どういったお仕事をしてたんですか?

    金田氏:
     ウィザードリィでは,どちらかというと管理職寄りの仕事でしたね。また開発者としては,「ダービースタリオン」につきっきりの状態でした。

    4Gamer:
     そういえば,当時はダビスタのシリーズ作が毎年のように※12リリースされていましたね。

    ※12
    1991年 FC,1992年 FC,1994年 SFC,1995年 SFC,1996年 SFC,1997年 PS1,1998年 SFC,1999年 PS1,1999年 SS……などなかなかの制作ペースだ。改めて見たら,こんなにあったとは。


    金田氏:
     それだけ,アスキーの経営状態が厳しかったんです。私だけでなく,開発部のスタッフが総出でダビスタに取り組んでいましたから。
     開発作業がピークを迎えていたある日,いきなり社長に呼び出されたんです。「おい,もしコレ(ダビスタの新作)の発売が遅れたら,うちは潰れるからな」って(笑)。

    徳永氏:
     社内の空気も「ウィザードリィ? よそで作ってくれよ」といった感じで,私としては肩身が狭かったですね。仮に新たなプログラマが名乗り出ても,きっと周りから白い目で見られていたでしょうし。実際,その後の外伝シリーズの開発作業は,社外に委託するようになりました。


    「ウィザードリィ外伝4・胎魔の鼓動」
    (スーパーファミコン,1996年)


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    4Gamer:
     そして外伝4では,プラットフォームがゲームボーイからスーパーファミコンに変わりました。
     ゲームボーイと比べると,スペック的にはだいぶ楽になっていそうですね。

    徳永氏:
     ROMの容量不足に悩まされなくなったという意味では,本当に助かりました。ただ,同じ年にNINTENDO64が登場するなど,スーパーファミコンの市場も急速に縮小していたんです。先ほど,ポケットモンスターでゲームボーイが盛り返した話がありましたが,外伝4は色々とタイミングが不運でしたね。

    4Gamer:
     確かにそうかもしれませんね……。外伝4といえば,なんといっても和風+ホラーの世界観が強く印象に残っています。

    徳永氏:
     これまでの外伝シリーズとは,舞台を思いきり変えたいと思ったんです。そこで個人的に好きなホラー映画に着目しました。
     そして日本人のプレイヤーに対しては,ファンタジーよりも和風テイストにしたほうが,ホラーの怖さが響くだろうなと。その結果,ああいったユニークな形になりました。

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    4Gamer:
     最初は「これがウィザードリィなの?」と思ったのですが,考えてみたらWizって,#1の頃から和洋折衷なんでもアリでしたよね。ファミコン版のカルチャライズが見事だったので,超正統派の西洋ファンタジーのようなイメージを抱いてしまいがちですけど。
     徳永さんにとっては,外伝4のような作品を手掛けたことで,シナリオ制作などにおいて吹っ切れたような部分もあったんでしょうか?

    徳永氏:
     確かに吹っ切れましたね(笑)。
     シナリオ面でも,外伝3の頃から温めていたどんでん返しを仕込めたので満足です。

    4Gamer:
     最後の最後で,実は外伝3につながっていることが明らかになるんですよね。

    徳永氏:
     ええ。「リルガミンを滅ぼした大本の原因は,お前たち“冒険者”にあるんだ!」というアイデアは,外伝3の開発時から考えていました。自分ではかなり手の込んだ仕掛けだと思っていたのですが,発売後にそのことを褒めてくれる人が全然いなくてショックでした(笑)。

    画像集#084のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー画像集#085のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー


    「ウィザードリィ ~ DIMGUIL」
    (プレイステーション,2000年)


    画像集#063のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
    4Gamer:
     外伝4の次は,プレイステーション向けに「ウィザードリィ ~DIMGUIL~」(ディンギル)を手がけられています。これまでとは違って,“外伝”の看板が外れていますが。

    徳永氏:
     ダビスタのくだりでも話しましたが,アスキー社内でウィザードリィの開発を続けるのは,もう無理だったんです。また私個人も,ほかのタイトルに関わるようになって,ウィザードリィに専念できない状態になっていました。恐らくですが,開発スタッフも様変わりしていたので,外伝の看板を外したのかなと。※13

    ※13
    とはいえ,パスワード方式で外伝4のキャラクターを“転生”できたりして,実質「外伝」の流れを引く作品ではあった。そしてアスキー最後のウィザードリィでもある名作。


    4Gamer:
     徳永さんは,DIMGUILにはどういう形で関わったんですか?

    徳永氏:
     DIMGUILのプロジェクトが最初に立ち上がったとき,私はシナリオ制作のみで関わり,ディレクターなどの業務はほかの人が担当するという条件でした。ところが,あれよあれよと状況が大変になり……。最後は私がディレクターまで引き継ぐ形になってしまいました。今でも大っぴらに言えないようなトラブルが続出して,本当に難産といえる作品でしたね……。

    4Gamer:
     DIMGUILはBCF以降の要素を積極的に取り入れたうえで,各種システムが順当に進化しています。またファンの評価も高く,今遊ぼうと思っても,中古市場でプレミアが付いてるんですよね。

    徳永氏:
     確かに順当進化と呼べると思います。
     私は開発当時を思い出したくもありませんが,そういった内部事情を抜きにして見れば,完成度が高い作品といえるでしょう。

    初代プレステの名作Wizとして名高い「ウィザードリィ ~ DIMGUIL」。いまでもファンの多い,日本オリジナルのWizだ
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    4Gamer:
     それではひとまず,ここまでの流れをまとめさせてください。

     外伝1からDIMGUILまでを振り返ると,ウィザードリィの日本独自展開といえる内容です。これらが人気を博し,また影響を受けたほかのタイトルも続出したことが,ダンジョンRPGが日本で定着した大きな要因の一つではないかと私は考えています。
     実際に開発者として関わってきたお二人にとって,この部分で何か思うところはありますか?

    金田氏:
     私としては,外伝シリーズが人気を博したのは,ひとえにファンのお陰だと考えています。そもそも期待するファンがいて,販売本数を出すことができたからこそ,その続編を制作できるわけですから。

    徳永氏:
     ウィザードリィ・外伝は,ダンジョンRPGのいちシリーズに過ぎません。ウィザードリィ以外にもたくさんのダンジョンRPGがありますし,それらを開発される皆さんも,それぞれ苦労があったかと思います。自分たちだけの力で成し遂げたとは微塵も思っていませんよ。

     その一方で外伝シリーズの開発時には,プレイヤーは自由に遊んでもらいたいし,作る側も自由でいたいと考えていて,自分なりに実行もしてきました。現在のダンジョンRPGは,ジャンルとしての幅が大きく広がっていますが,その広がりに一人の開発者として貢献できたのであれば本望ですね。

    4Gamer:
     次に,日本でウィザードリィが爆発的に広がった転機を振り返ると,オリジナルの#1は別格として,カルチャライズの方向性を決定付けたファミコン版の1と,日本独自展開の皮切りとなった外伝1が大きいのではと考えています。そしてこの両タイトルにおいて,三田さんがメインで開発作業を行われています。

     人によって違うことを承知のうえで申し上げると,いまも熱心なファンが「ウィザードリィらしさ」と聞いて思い浮かべるイメージの大部分は,三田さんの舵取りによって築き上げられたものだと思えるんです。この点については,いかがでしょうか?

    ファミコン版「1」のエンディングより
    画像集#014のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
    徳永氏:
     それはまったく同感ですね。
     私も開発者として「ウィザードリィらしさ」を意識していますが,それは三田さんからの影響を多大に受けています。今も尊敬している人です。

    金田氏:
     ファミコン版の開発現場をリアルタイムで見ていたわけではないですが,やはり三田さんと,ゲームスタジオの方々の影響力が非常に大きかったと思いますよ。外伝1に関しては言うまでもないでしょう。

    4Gamer:
     ちなみにお二人は,現在は三田さんとコンタクトを取られているのですか?

    徳永氏:
     それが……実は長らく連絡がつかないのです。
     4Gamerさんがおっしゃる内容はまったくその通りですし,関係者みんなが探しているんですが。

    金田氏:
     私のところにも,三田さんの行方を尋ねるメールが何回も送られてきています。
     そこでお願いなんですが,もしこのインタビュー記事を三田さんがご覧になったら,金田宛に連絡してください。よろしくお願いします!



    「ウィザードリィ・外伝 ~戦闘の監獄~」
    (Windows XP,2005年)


    画像集#064のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
    4Gamer:
     DIMGUILが発売されてから5年後となる2005年に,「ウィザードリィ外伝・戦闘の監獄」が発売されました。プラットフォームはWindowsで,これまでとはガラリと違っていますが,当時の開発経緯についてお願いします。

    徳永氏:
     私はDIMGUILの開発作業を終えてから,ウィザードリィ以外のいくつかのタイトルを手掛けたのち,フリーに転身しました。
     ですが,アスキーに在籍していた頃から,「自分が作りたいウィザードリィ」を形にしたいという想いが,少しずつ募っていたんです。とはいえ,アスキー時代はディレクターとして関わっていたものの,プログラミングに関しては素人でした。また,直接の業務とも関係がないので,独学でプログラミングを勉強しながら,少しずつ開発作業を進めていました。

    4Gamer:
     徳永さんはゲームボーイ版の外伝シリーズでも,オリジナリティを大切にされていましたよね。それとは別に「作りたいウィザードリィ」があったということでしょうか。

    徳永氏:
     はい。実は外伝シリーズを手掛けていた頃から,ゲームメーカーがシナリオを販売するビジネスモデルに対し,限界を感じていました。それならいっそのこと,ユーザーが自分でシナリオを制作して,それを望む人がいればダウンロードで相互に供給するシステムを構築したほうが,私も含め幸せになれるのでは? と。
     つまり,自分が作りたかったのは,「シナリオエディタの機能を搭載したウィザードリィ」になります。

     そしてそのシナリオエディタの実装を踏まえると,ゲームの基本のシステムはシンプルな方が望ましい。具体的にはナンバリング作の#1~#3や#5,そして外伝シリーズの初期のような,ある意味で原点回帰ともいえる内容です。

    画像集#016のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー画像集#017のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

    4Gamer:
     なるほど。
     プログラミングは独学とのことですが,開発作業はスムースに進んだんでしょうか。

    徳永氏:
     なんだかんだで遊べる形にするまで,トータルで10年近く掛かりましたね。

    4Gamer:
     じゅ,10年!?

    徳永氏:
     しかも,完成させたときはフリーの身だったので,販売してくれるパブリッシャさんを探したのですが,これも難航しました。すでに時代が変わっていたのか,ダンジョンRPGに対して前向きなメーカーさんが見当たらなかったんです。
     それで世に出すのを諦めてかけていたのですが,そんなときにアスキー時代に一緒に仕事をしていた金田さんにダメモトで相談したところ,手を差し伸べてくれました。

    金田氏:
     当時の私は有限会社を設立して,ウィザードリィとはとくに関係のない事業を手掛けていました。会話ロボットのシナリオ制作とか,携帯電話関連のサービスの立ち上げとか。
     そういったなか,久しくやりとりをしていなかった徳永さんから「自分で作ったウィザードリィをログインソフトでリリースしたかったけど,頓挫しそうなんです」といった連絡が来て。びっくりしつつも,ひとまず見せてもらいました。

    4Gamer:
     あの戦闘の監獄が,ログインソフトからリリースされる可能性があったとは。それで,徳永さんが作られたウィザードリィは,金田さんからどのように見えましたか?

    金田氏:
     長年ウィザードリィに関わっていた徳永さんだけに,ダンジョンRPGとしての基本システムは,しっかりしていました。ですがグラフィックスやサウンドなどが簡素で,このままでは商品として世には出せないなと。仮にウィザードリィの看板を付けて,それにふさわしい体裁を整えるとなると,おそらく1000万円規模の開発費が追加で必要だろうと思いました。

     その額を当時の弊社が単独で捻出するのは難しそうだったので,IRI-CT(※当時の社名。現在はイード)の宮川社長(※現在もイードの社長)に打診しました。実は彼は,アスキー時代の同期なんです。
     そしてこのときのIRI-CTさんは,ちょうどパッケージゲームの部門を立ち上げるタイミングで,運良くその流れに乗ることができたというわけです。

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    4Gamer:
     商品化のために,具体的にどういった作業を?

    金田氏:
     まず,ウィザードリィの看板を掲げるのであれば,モンスターのデザインは末弥さんを起用したいところです。しかし予算を踏まえると,総てのモンスターを新規でデザインしてもらうのは無理です。そこで,コンシューマ版の開発時に使った原画を再利用する方向で考えました。

    4Gamer:
     今回はゲームボーイ向けではなくWindows向け,つまりカラー表示が可能なわけで,であれば末弥さんのイメージが真っ先に思い浮かびますよね。

    金田氏:
     ところが,末弥さんがファミコン版のために当時描いた原画は,非常にラフなものだったんです。
     ファミコンの解像度は今ではありえないくらいの低さで,またモンスター1体を表示させる際も,たったの4色しか使えませんでした。仮にリアルな原画を持ってこられても,逆にデザイナーが困ってしまうような時代だったんです。
     そのため,当時の原画を1枚1枚こちらで描き直し,それに対する監修作業を末弥さんにお願いする方向でまとまりました。

    4Gamer:
     ファミコン版のモンスターグラフィックスは,ブラウン管の“にじみ”すら逆手に取って表現されてる感じがありますし,こうやって描き直されたグラフィックスと見比べると,隔世の感がありますね。

    ソードマン
    左から,末弥氏がファミコン版のために当時描いた原画(!),ファミコン版のスクリーンショット,そして「五つの試練」のために描き直したグラフィックス
    画像集#020のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー画像集#021のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー画像集#022のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

    ハタモト(レベル3 サムライ)
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    グレーターデーモン
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    金田氏:
     次に音楽ですが,ここは景気よく羽田健太郎さん※14 と言いたいところですが,さすがに予算が見合うはずもなく。
     そこで,当時親しくさせていただいていた,ベイシスケイプ※15さんにお声掛けをしました。当時はすでにゲーマー間で有名で,ウィザードリィとの親和性もきっと高いだろうなと。「予算がこれだけしかないのですが……」と恐る恐る打診をして,引き受けていただいたときは嬉しかったですね。

    ※14
    既述のとおりファミコン版ウィザードリィの音楽を担当した作曲家。クラシックからポップス,劇伴音楽からゲーム音楽まで多岐にわたる活躍を見せており,この当時は大御所と言っていいほどの存在で,手掛けた曲の知名度は半端なものではない。4Gamerでは以前,ファミコン版ウィザードリィにちなんで開催されたオーケストラコンサートの取材記事を掲載している

    ※15
    崎元 仁氏が代表を務める,ゲームサウンドのトータルプロデュースを手掛ける会社。「伝説のオウガバトル」「タクティクスオウガ」「ファイナルファンタジーXII」「十三機兵防衛圏」などなど,数々の名作を手掛けている。


    4Gamer:
     個人的に戦闘の監獄は,原点回帰の各仕様をはじめ荘厳なBGMや軽快な動作など,理想のウィザードリィそのものでした。徳永さんにとって,開発後の手応えはいかがでしたか?

    徳永氏:
     ありがとうございます。手応えがあったと言えれば良いのですが,当時はプログラマとして新米で,リリース時点ではバグも多く反省することしきりでした。
     アップデートを重ねることでバグは解消できましたが,そのときも手応えというより,ようやく安心できたことのほうが印象に残っていますね。

    4Gamer:
     戦闘の監獄にシナリオエディタは搭載されませんでしたが,リリース後に無料の追加シナリオ「テッドの迷宮」と,有料の追加シナリオ「慈悲の不在」が登場しています。

    左から,「テッドの迷宮」と「慈悲の不在」のスクリーンショット。なお慈悲の不在に関しては,単体で起動できるiOS向けアプリ(税込1600円)も現在配信中だ(外部リンク
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    徳永氏:
     当時の私は戦闘の監獄本編のアップデート開発に手一杯で,シナリオエディタを公開する余裕まではありませんでした。ただ,エディタを内部で使う分には支障がなかったので,これを利用して追加シナリオを展開することにしたんです。

    金田氏:
     でも慈悲の不在は,販売実績があまり振るわなかったですね。
     そもそも追加シナリオの形式だと,本編を持っている人しか入手できません。そして戦闘の監獄も,ウィザードリィの休眠層までは十分に届いておらず,ダウンロード販売に対する限界がありました。

    4Gamer:
     金田さんにとって,戦闘の監獄に対するビジネス的な評価はいかがでしたか?

    こちらはPlayStation 2向けに移植された「戦闘の監獄」
    画像集#073のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
    金田氏:
     実際にプレイされた方の評価は非常に高く,またほかのプラットフォームへの展開も行え,利益も出せました。ですが,「昔はウィザードリィにハマっていたけど,長らくゲームから離れている」といった,いわゆる休眠層の引き起こしには至っていません。

     かつてウィザードリィをリアルタイムで経験した人は,年齢を重ねてお金にも比較的余裕ができている頃合いでしょう。過去のウィザードリィシリーズの販売本数を踏まえると,仮に休眠層へのアプローチが成功していれば,もっと良い結果を残せたはずです。その点では,反省が残るプロジェクトでしたね。

    「戦闘の監獄」は現在もiOS版が配信中。有料版(税込3180円)のほか,地下2階までプレイできる無料版も用意されている
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    「ウィザードリィ・外伝 ~五つの試練~」
    (Windows XP,2006年)


    画像集#065のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
    4Gamer:
     戦闘の監獄の次は,「ウィザードリィ・外伝 ~五つの試練~」が2006年という早いペースで発売されました。

    金田氏:
     IRI-CTさんから早々に,続編を制作しませんかと打診があったんです。でも,旧外伝シリーズの開発経験を振り返ると,仮にシリーズ化した場合は,新たな“売り”を作るのに苦労するのが目に見えていました。ですので,最初に打診を受けたときは難色を示しましたね。
     実際には,1つだけ売りを用意することができたのですが,それは禁じ手でした。徳永さんが先ほど言っていた,シナリオエディタです。「仮にこれを公開したら,もう続編は出せなくなるかもしれませんよ?」と,IRI-CTさんに念を押したことを覚えています。

    4Gamer:
     それはつまり,ユーザーが自前で優れたシナリオを作れてしまうと,オフィシャルが続編を出す意味がなくなってしまうということですか。

    金田氏:
     そういうことですね。また,それとは別問題で,ユーザーが優れたシナリオを作れるかどうかも未知数でした。そのためシナリオエディタだけを売りにするのはリスクがあります。
     そこで,仮にシナリオエディタが無くても楽しめるように,我々が制作した5本の公式シナリオをセットにして,「五つの試練」に仕上げました。

    画像集#031のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー画像集#032のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

    4Gamer:
     シナリオエディタに対する,発売後の反響はいかがでしたか?

    徳永氏:
     驚くべきことに,現在に至るまで110本以上もの優れたシナリオが投稿されています。

    4Gamer:
     “とりあえず作ってみた”レベルではなく,きちんと遊べるシナリオが110本以上ということですか?

    金田氏:
     その通りです。
     私はアスキー時代にツクールシリーズにも関わったことがあるので分かるのですが,一般のユーザーさんがエディタを使ってゲームを最後まで仕上げるのって,相当ハードルの高いことなんです。五つの試練のシナリオエディタも,ちょっと触って頓挫してしまう人が多いんだろうなと内心思っていました。
     しかし実際には,公式シナリオを上回る完成度の投稿シナリオも少なくありません。皆さん,本当に素晴らしいです。

    本稿の執筆時点での公式サイトの画面キャプチャ
    画像集#033のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
    4Gamer:
     いま公式サイトを確認しました。リリースから15年も経過して,最新OSへの公式サポートすら行われなくなって久しいのに,現在に至るまで途絶えることなくシナリオが投稿されているんですね……。確かに,これはすごい。

    金田氏:
     ゲーム開発におけるアマチュアとプロの違いは,それでお金をもらっているか否かだけです。それよりも大事なのは,開発者がこれまで経験してきたことと,ゲームに対する情熱であり,それらは学校で習えるような代物ではありません。

     今回のシナリオエディタに対する反響を見て,こういった情熱を持つ人が,今後のウィザードリィを背負うのが自然な形ではないかと思いました。そして,そのための環境を実現できたという意味で,五つの試練には大きな手応えを感じています。

    4Gamer:
     徳永さんにとっては,積年の想いが結実されたといえるんでしょうか。

    徳永氏:
     そうですね。
     しかし,ユーザーがこだわることで,シナリオエディタの可能性はまだまだ広がる余地があると信じています。それを証明するために,五つの試練のリリース後も,地道にアップデート作業を続けています。

    4Gamer:
     とはいえ,ユーザーはシナリオエディタを無料で利用できる一方,アップデートの開発やサーバー周りの費用は発生し続けるわけですよね。

    徳永氏:
     費用は我々の持ち出しです。
     先ほど申し上げた「自分の作りたいウィザードリィ」に直接関われるのだから,私は多少のことなら我慢できます。しかし金田さんは通常業務もあるなか,土日などに対応をお願いすることもあるので,申し訳なく思っています。

    金田氏:
     そこに関しては,別の面での反省もありますね。
     やはり,完成度の高いシナリオを制作した人は,何らかの形で利益を享受できるようにしたいですね。当時はそういう仕組みを作るのが難しかったのですが,今なら可能性があるでしょうし。

    画像集#034のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー画像集#035のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

    4Gamer:
     シナリオエディタがカスタマイズできる幅について確認をさせてください。
     たとえばですが,ウィザードリィの過去シリーズ作を丸ごと再現するようなシナリオは作れますか?

    徳永氏:
     著作権のことはいったん脇に置いてエディタとしての可能性だけを言うと,少なくとも#1~#3は再現可能です。#5は,1フロアのサイズが大きいので難しいですね。

     ちなみにダンジョンは100層まで,アイテムやモンスターは999種類まで登録できます。呪文効果もある程度自由に変更できます。外伝シリーズなら,#1~#4を全部足したよりもボリュームのあるシナリオが制作できますよ。

    五つの試練のシナリオエディタ「Wiz_Scenario Making Tool」
    画像集#053のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

    4Gamer:
     かなり強力なエディタですね。

    徳永氏:
     ゲームボーイ版の外伝シリーズを開発していた頃,マップデータの入力作業に苦労していたのを思い出します。もし当時にこんなグラフィカルなエディタがあれば,開発作業も楽だっただろうなと。

    金田氏:
     あの頃はプリントしたダンジョンの図面を見ながら,壁やダークゾーンなどの座標を一個一個手打ちで入力していたんですよ。

    画像集#036のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
    徳永氏:
     壁のレイアウトを1マス間違えて「*いしのなかにいる*」も,開発中に何度もありましたね……。

    4Gamer:
     外伝シリーズのスタッフロールをあらためて見ると,関わっている開発者の少なさに驚かされます。デバッグ作業なんかも,きっと大変でしたよね。

    金田氏:
     ファミコンの頃は,アスキーの社員が総出でデバッグ作業を行っていました。外伝シリーズの初期に,社内にデバッグ専門のチームが出来て嬉しかった記憶がありますね。

    徳永氏:
     それでもマスターアップの直前にフラグミスが発覚して,何日間も帰宅できないとか,苦労が多かったです。全力で対応したつもりでも潰せなかったバグが多く,反省することしきりです。


    「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版
    (Windows 10,2021年)


    4Gamer:
     さて,そんなわけでようやくですが。
     ついに,今回のインタビューの主題である「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版です。2006年に発売されたタイトルが,いったいどういった経緯でリニューアルに至ったのでしょうか。

    画像集#037のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

    徳永氏:
     戦闘の監獄と五つの試練はWindows 98でも動作するように開発したのですが,その後のマイクロソフトのOSアップグレードに対応できない状態が長く続いていました。熱心なユーザーさんの間では,新たなOSに対応するための抜け道が伝わっていましたが,やはりオフィシャルが正式に対応させるべきでしょう。

    金田氏:
     でも開発に必要な予算を捻出できず,どうにかせねばと思いつつも,ズルズルと時間だけが経過していました。
     そういったなか,iOS向けに展開している戦闘の監獄に関して,アップルから64bit対応を義務化する通達※16があったんです。対応しなければストアからリジェクトされてしまうため,これはマズいと重い腰を上げました。

    ※16
    2014年10月20日に通達が出され,2015年2月1日からの対応が義務づけられた。


    4Gamer:
     私は戦闘の監獄に触れたとき,「これさえあれば,版権問題に悩まされずに昔ながらのウィザードリィを一生遊べる!」と大喜びしていたのです。まさか,OSのアップグレードで遊べなくなるとは,夢にも思いませんでした。

    徳永氏:
     WindowsやiOSの最新バージョンに対応させるだけなら,実はそれほど難しい作業ではないんです。実際に2017年の時点で,五つの試練のWindows 10版やiOS版は,内部では一応完成していましたし。
     でも,どうせなら「将来的な展開」にも対応できるように,色々と仕込みをしたかったんです。そこでプログラムをUnityで作り直すことにしたのですが,ここからの作業がとにかく大変でした。

    金田氏:
     次に販売形態ですが,今回のパブリッシャであるイードさんと相談したうえで,Steamを通じてのダウンロード販売を採用しました。

    4Gamer:
     現在はダウンロード販売が主流ですからね。旧バージョンのパッケージ版はとても格好良かったので,少し残念ではありますが。

    徳永氏:
     確かに制作者側から見ても,戦闘の監獄と五つの試練のパッケージ版は,見ていて誇らしかったです。

    金田氏:
     そういえばアスキー時代も,パッケージの箔押しはお金が掛かるので,よく営業部に嫌がられていましたよ(笑)。

    画像集#038のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

    4Gamer:
     Steam版の基本コンセプトはどんなものですか?

    金田氏:
     私は最初,なるべく工数を掛けずにサクっとリリースするのが良いかなと考えていました。その点を踏まえると,すでに完成しているiOS版の戦闘の監獄をベースにして,Windowsへの移植や五つの試練への対応を行うのが確実です。
     ですが,イードさんが非常に乗り気になってくださいまして。このあたりの詳しい話は,ディレクターである堀江さんに聞いてもらうのが早いと思います。

    イード 堀江 陽氏(以下,堀江氏):
     はじめまして。今回のSteam対応版でイード側のディレクターを担当している,堀江と申します。
     金田さんがおっしゃる,モバイル版をベースにベタ移植する方法は,確かに開発工数だけなら少なく済むでしょう。しかし,かく言う私もウィザードリィが好きで,五つの試練を再びリリースできないか,社内でずっと働きかけを続けていました。その結果,今回の再リリースにつながったわけで,せっかくなら現在のゲーム環境で欠かせないSteamへの対応をはじめ,遊びやすい環境を構築したいと思ったんです。

    4Gamer:
     Steamへの対応以外には,どういった開発作業を行ったんですか?

    堀江氏:
     移植作業のベースとなるiOS版の戦闘の監獄は,UIレイアウトなどがスマートフォン向けに最適化されています。ですが今回のSteam対応版は,高解像度かつワイド画面でのプレイを想定しています。その環境で迫力のあるゲームプレイを楽しむには,新たなUIレイアウトが必要だと思いました。
     一方で,ウィザードリィといえば,白と黒が織りなすシンプルなUIレイアウトを思い出す昔ながらのファンも多いでしょう。そういった人に親しみを持って遊んでもらうために,ややクラシック寄りにしたUIレイアウトもあるとベターです。これら2種類のUIレイアウトを,新規で開発することにしました。

    画像集#039のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー画像集#040のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
    新規UIレイアウト「HD MODE(仮)」新規UIレイアウト「HD Classic(仮)」

    徳永氏:
     ちょっと補足すると,Steam対応版のUIレイアウトは,イードさんが主導でデザインされた2種類と,従来のスマホ向けのものをベースにした2種類があります。計4種類あるどのUIレイアウトでもゲーム内容は同じなので,遊びやすいものを選んでいただければと。

    スマホ向けをベースに,アスペクト比などを変えたUIレイアウト2種類
    画像集#041のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー画像集#042のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

    4Gamer:
     さきほど私も開発バージョンを触らせていただきました。プログラムをUnityで作り直しているとのことですが,ダンジョン内の演出なども微妙に違っていますね。

    堀江氏:
     解像度が最大4Kまで対応しているほか,ダンジョン内を3D化していたり,ちょっとしたオマケ機能も追加していたり,またゲームパッドにも対応していたりと,内部的にはかなり変更しています。タイトル名やゲームの内容こそ,ユーザーの皆様に15年愛していただいた「五つの試練」ですが,2021年に登場するPC向けゲームとしてふさわしい機能を盛り込んでいます。

    画像集#043のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
    4Gamer:
     特に印象に残った点のひとつは,モンスターのグラフィックスです。
     末弥さんが手掛けられたグラフィックスを,フルスクリーンで堪能できるのは素晴らしいの一言です。思わず,手元にあるウィザードリィの画集と見比べてしまいました。

    徳永氏:
     モンスターのグラフィックスに関しては,「戦闘の監獄」や(旧バージョンの)「五つの試練」の開発時に描き直していただいた原画をもとに,あらためて制作しました。
     実は,当時描き直した原画は緻密に描かれていたのですが,戦闘の監獄の画面解像度は640×480ピクセルだったため,その良さを完全には生かせていなかったんです。今回のSteam対応版で,ようやく原画にふさわしいグラフィックスを実現できたと思います。

    4Gamer:
     好評だったシナリオエディタに関しては,Steam対応版ではどうなるのでしょうか?

    シナリオの選択画面
    画像集#086のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
    徳永氏:
     もちろん,実装していますよ。シナリオエディタも「Wiz Tools 2.0」として,イチから作り直しています。
     シナリオ投稿用に新たなサーバーを構築しており,過去に投稿されたシナリオも全部コンバートします。また,ゲーム内メニューでシナリオをダウンロードできるなど,よりアクセスしやすくなっています。

    4Gamer:
     ……ということはリリース時点で,五つの試練の公式シナリオだけでなく,110本以上ものユーザーシナリオも丸ごと遊べるわけですか?

    徳永氏:
     そういうことですね。
     そのほかにも,制作中のシナリオのオートセーブ機能を追加するなど,シナリオエディタ自体も大幅にアップデートしています。これまで優れたシナリオを制作してくださった皆さんに対しては感謝するとともに,ぜひ今後の展開にも期待してくれればと思います。

    画像集#044のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

    4Gamer:
     リリース後の展開に関して,現在お話できることはありますか?

    徳永氏:
     仮に今後新しい何かをするにせよ,きちんとリリースしてプログラムを安定させなければ話になりません。それをクリアした後の話にはなりますが,ぜひ実現したいのは,シナリオエディタのアップデートです。
     これまでの投稿作品を通じて,ユーザーさんの熱意は十分に届いています。その熱意に答えるべく,エディタ内のカスタマイズ幅を広げるなど,より奥深いシナリオを制作するための環境を整えたいですね。

    金田氏:
     ただ,カスタマイズ幅を広げると,制作時のハードルが高まるという側面もあります。ですので,カスタマイズ幅をどこまで広げるかの判断は悩ましいですね。まぁ,究極まで突き詰めると,自分でゼロから作れば何でもできるわけですが(笑)。

    4Gamer:
     半分冗談かと思いきや,金田さんは外伝1で,徳永さんは戦闘の監獄でそれを実行されていたわけですね……。

    堀江氏:
     あとは,シナリオを投稿するサーバーに関して,「Steamワークショップ」にアップロードする方法も予定しています。

    画像集#045のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

    4Gamer:
     ほかプラットフォームへの展開はいかがでしょうか。
     今回はゲームパッドにも対応しており,最新のコンシューマ機でも遊んでみたいなと思いました。また,iOS版から移植されたUIレイアウトもあるわけで,スマホ向けの展開も行えそうです。

    堀江氏:
     今のところ何も決まってはいませんが,将来的にそういった展開も検討できるように,まずはリリース時の完成度を高めたいですね。

    4Gamer:
     海外に向けての配信予定はいかがでしょうか?
     太古の昔より,日本で展開されるウィザードリィは,ゲーム内コンフィグで英語を選べます。またSteamなので,海外対応も極端に難しくはなさそうです。

    金田氏:
     実際には,公式シナリオやシナリオエディタの翻訳作業も必要になるので,すぐに対応というわけにはいかないでしょうけど。海外のウィザードリィファンが制作するシナリオは,ぜひ見てみたいですね。

    4Gamer:
     個人的には,Andrew C. Greenberg氏やRobert Woodhead氏にも,本作のことを伝えたいと思いました。あなた達が作ったWizardryは,今もなお日本でこんなに愛されているんですよ,と。
     それと,もちろん三田さんにも……!

    金田氏:
     三田さん,もし見ていたら連絡お待ちしてます!

    画像集#046のサムネイル/Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー

    4Gamer:
     では,そろそろ締めに入らせて頂きます。
     まず,長年のウィザードリィのファンに向けて,本作の見どころをあらためてアピールしてください。

    堀江氏:
     今回リリースする五つの試練は,「ウィザードリィ・外伝」シリーズの最新作です。そして同時に,皆さんが“ウィザードリィ”と聞いて思い浮かべるであろう,Apple II版やパソコン版,ファミコン版,ゲームボーイ版,スーパーファミコン版における,あの良さを存分に引き継いだ作品です。ウィザードリィのファンなら確実に楽しめるので,ぜひご期待ください。

    4Gamer:
     そして,ダンジョンRPG未経験者に向けてのアピールもお願いします。

    堀江氏:
     五つの試練のダンジョンは,シナリオによってそれこそ千差万別です。謎を解かない限り一歩進むだけで帰らぬ人になるようなダンジョンや,地獄のような悪鬼が蠢く中,屍の山を築き上げるダンジョン,深いことは考えずにスキップ気分で進められるダンジョンなどなど。ユーザー投稿シナリオを含めると,その可能性はまさに無限大です。

     ウィザードリィは長い歴史があるので,名前を聞いて尻込みする人もいるかもしれません。ですが基本システムは非常にシンプルで,遊ぶためのハードルも低いです。しかもSteamなので,もし興味を持ったらすぐにダウンロードして遊べます。ぜひこの機会に,ダンジョンRPGの神髄を味わってみてください。

    4Gamer:
     期待しています。
     本日はありがとうございました。


    「ウィザードリィ外伝 五つの試練」ティザームービー

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    「ウィザードリィ外伝 五つの試練」公式Twitter


     イードは本日,59 Studioが開発中のPC向け3DダンジョンRPG「ウィザードリィ外伝 五つの試練」の配信を2021年6月18日にSteamで開始すると発表した。価格は2980円(税込)で,同日には再リマスタリングを実施したサウンドラック「Wizardry外伝 戦闘の監獄 & 五つの試練 Audio Collection」もリリースされる。

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    tag : WizardryウィザードリィSteam

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