ロックスター・ゲームスの歴史を振り返るコラムシリーズがスタート! 初回はもちろん『GTA』【R★情報局】 ROCKSTAR HISTORIA Vol.1:『GRAND THEFT AUTO』
Text by Mask de UH
ROCKSTAR GAMES(以下、R★)のタイトルの面白さ、インモラルさを超越した魅力とは一体何なのか?
それを理解するには、R★の歴史を紐解くことで糸口が見えてくる!
R★ブランドがこれまでに送り出した様々なタイトルには、過去から現在につながる一貫したポリシーを見出せるだろう。世界のゲーム市場に革命をもたらしたGTAシリーズとて、長い歴史の中で研鑽を積み重ねて現在のスタイルに進化したのだが、過去のR★作品は日本未発売のタイトルが多く、その歴史をカバーするのは決して容易ではない。だが、R★の新作タイトルには、過去作品からのインスパイアや設定上の連動、ゲームデザインの改良などが含まれており、そこから意外なつながりを再発見することができるのだ。
このコラムでは、そんなR★のディスコグラフィーを追いつつ、その初期から現在に至るまでの歴史をタイトルごとに紹介して、深淵で過激、VIOLENCEとFUNNYがカオティックに混在するR★のディープな味わい方を語り尽くしたい。 そんな趣旨だかからして、最初に取り上げるべきタイトルは既に決定している。全てのオープンワールド系ビデオゲームの、そして全てのクライムアクションの始祖と断言できる看板シリーズ第1作目、そのタイトルもズバリそのまんまな『GRAND THEFT AUTO(グランド・セフト・オート)』(公式サイト)、以下お馴染みの『GTA』で表記を統一させていただく。
最初の『GTA』がリリースされた時は、実はまだ社名はROCKSTAR GAMESではなく、DMAという開発スタジオ名義であり、リリースは音楽レーベルBMGが新設したインタラクティブ部門からだった。ちなみにR★の名称で会社組織が設立されたのは翌年の'98年である。
1997年10月に北米で発売された『GTA』(PC版。翌年プレイステーション版)は、皆さんご存知の通り。翌年の'98年にはシスコンエンタテイメントより日本版がリリースされたが、この時は東京ゲームショーにて大々的に『GTA』の過激さを発表して、当時はそれなりに物議を醸して話題になっていたと記憶している。
第1作目はお馴染みの悪徳の街リバティー・シティを上空から見下ろす固定視点のゲームデザインが採用されている。3Dフルポリゴンゲームこそ当時の最新鋭というムーブメントがあっただけに、初見の『GTA』は正直「地味」な印象があったのも事実だが、一度遊んでみれば、地味に思ってしまった自分の心を恥じて死体袋に放り込み火葬場に送りたくなるほど、その内容は過激極まりないものだった。
R★のキーマンであるダン・ハウザー氏が、昨年筆者が週刊ファミ通本誌で行ったインタビューにおいて、見下ろし視点は「O・J・シンプソン事件の時のCNNの生中継にインスパイアされた」(該当回はこちら)と語ってくれたが(O・J・シンプソンを知らない人はレスリー・ニールセン主演のコメディ映画『フライング・ハイ』に『死亡遊戯』のジャバーと一緒に出演していた元アメフト選手にして黒人俳優といえば、わかるだろうか? わっかんねぇだろうな。ウィキペディアで調べて!)、ダン・ハウザー氏と実兄でありR★のエクゼクティブ・プロデューサーのサム・ハウザー氏は英国出身であり、CNNのカーチェイス生中継やロス暴動といったアメリカ合衆国で発生する事件の数々は、英国では遠い国で起きているエンターティメント感全開の犯罪でしかない。
そこから、英国人ならではの視点で「アメリカ合衆国という巨大国家が持つ大きな矛盾」をゲームに落とし込んだのが『GTA』というワケだ。
『Race'n'Chase』のデザインドキュメント。DMA Designのゲームデザイナー、マイク・デイリー氏により、当時のプロトタイプの画像などとともに公開されている。) もちろん見下ろし型の視点を採用したのは上記の理由だけに留まらない、後の『GTAIII』で結実する3Dオープンワールドの理想型は、当時のハードスペックでは表現できなかったところが大きいだろう。逆に言えば、見下ろし固定視点以外の要素は、第1作目の時点で、ほぼ全て出揃っていたことになる。
また、これまであまり語られることのなかった事実としては、『GTA』には更にプロトタイプと呼べるタイトルが存在している。それが『RACE'N'CHASE』だ。単なる競争ではなく、「犯罪者が警察車両から逃げる」という、ある意味ゴールらしきポイントが存在しないのがコンセプトであり、アイデアとしては画期的なものだった。この『RACE'N'CHASE』に手直しを加え、タイトルを変更したものが『GTA』なのである。
『GTA』の、街のチンピラがポケベル(このへんが時代を感じさせるが、呼び出し音は『GTAIII』と同じだったりする)から悪の組織から指令を受け、車両強盗を皮切りに殺人、誘拐、ギャング抗争などあらゆる悪事に手を染めていく行程は、これまでのビデオゲームではあり得なかった展開である。唯一近いものがあったとすれば、それはピーター・モリニューの『シンジケート』(NOTリメイク版)ぐらいだろう。今ではあまり想像つかないが、15年前のゲーム市場において、悪人が主人公のピカレスクロマンを題材にしたようなゲームは殆ど存在しなかったのである。同時に、発想としてのオープンワールド……初期段階では実現こそしていなかったものの、その根源的なアイデアは、既に第1作目に盛り込まれている。『GTA』のマップには、リバティー・シティ、バイス・シティ、そしてサン・アンドレアスが存在し、後のプレイステーション2時代を代表する3部作の礎が確認できるのだ。
つまり、『GTA』シリーズは時代の流行に合わせて作られていたのではなく、完成済みのコンセプトを最新の技術で仕上げる壮大なサーガであることが理解できるのだ。これは現代のお伽噺であり、そこに極めて過酷な人間社会の現実をトレースした物語を組み込んだ、まさにビデオゲームというメディアでしか表現できない、デジタル芸術と評価しても良いと思う次第である。
もちろん、ゲームの完成度としては、まだまだ未発展の段階だ。しかし、この第1作目無くして、日本を含む世界のゲーム市場は大きな転換期を迎えることは無かっただろう。この後、『GTA』シリーズは様々な試行錯誤を経て、完成体である『GTAIII』へと帰結するのだが、それはまだ先の話。次回はパート3に至るまでの隠された歴史を紐解いてみよう。
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