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    Access Accepted第430回:経営危機が囁かれるドイツのCrytek

     

     「Crysis」シリーズで知られるドイツのCrytekだが,「Homefront: The Revolution」を開発中のCrytek UKで賃金未払いが発生していることをドイツやイギリスのメディアが報じるなど,最近,あまり良くないニュースが流れている。「CryENGINE」をライセンスした作品も増えず,また収益予想がつきにくいFree-to-Playビジネスへの移行にも苦しんでいる様子で,今後の動きが注目されている。


    学生プロジェクトとしてスタートした3Dゲームエンジン


     「Crysis」シリーズでおなじみのドイツのゲームメーカーCrytekは,トルコ系のイェルリ(Yerli)三兄弟,セヴァット(Cevat),アヴニ(Avni),そしてファルク(Furuk)によって1999年,ドイツ中南部の人口4万人ほどの小さな町コブルグに設立されたゲームメーカーだ。長兄のイェルリ・セバット氏が大学生だった1997年頃,当時3Dグラフィックス化の波が押し寄せつつあったゲームを自分でも作ってみようと思い立ったのが,設立のきっかけだという。

     大学生に高度な3Dグラフィックスエンジンを自作することなどできない,と思われていた時代だったが,セヴァット氏は2人弟に加え,ネットコミュニティで知り合った仲間達を集めて,「Silent Space」というゲームデモを完成させた。
     このデモのゲームエンジンには「CrySpace」と名づけれらたものが使われていたが,それが彼らの「CryENGINE」につながっていくことになる。

    「Far Cry」や「Crysis」など,「CryENGINE」と言えばジャングル,というイメージだが,密林のリアルな表現には最初からこだわりがあったらしい。もっとも,「CryENGINE」は汎用性も高く,MOBAやスペースコンバットシムなど,さまざまなジャンルの新作が開発されている
    Access Accepted第430回:経営危機が囁かれるドイツのCrytek

    Crytek公式サイト


     イェルリ兄弟はその後,NVIDIAの援助を受けて新たなテクノロジーデモの制作を開始し,2001年に開催されたElectronic Entertainment Expoで,「X-Isle:Dinosaur Island」を発表した。筆者は13年前,このデモについての記事を書いているが,当時「ジャングルで動き回る恐竜達」がいかに斬新だったのか,改めて読み返してみるとそれがよく分かる。
     結局,発表されたデモがゲーム化されることはなかったが,そのバックボーンとなったエンジンが「CryENGINE」であり,パブリッシャとして名乗りをあげたUbisoft Entertainmentと共に企画の練り直しが行われた結果,2002年「Far Cry」がリリースされることになったのだ。

     彼らは早い時期に,本拠地をコブルグからドイツの大都市フランクフルトに移し,2007年にはElectronic Artsから「Crysis」を発売。さらに2013年にはXbox Oneのローンチタイトルである「Ryse: Son of Rome」の制作を担当したほか,長らくロシアでテスト運営していたFree-to-PlayのFPS「Warface」の欧米ローンチを,同じ2013年に果たしている。
     海外の開発拠点も年ごとに増え,Nintendo 64の名作タイトルとして多くのファンに記憶される「GoldenEye 007」で知られるRareの元開発者達が設立したFree Radical Designを2009年に買収してCrytek UKとして以来,イスタンブール,ソウル,上海,ブダペストにオフィスを設立。2013年には,「Darksiders」シリーズを開発したVigil Gamesを倒産したTHQに代わって傘下に収めており,フランクフルトのほかに8つの開発拠点を持つメーカーに成長した。

    公式フォーラムに掲載されていた,Crytekのオフィスの入口。当たり前だが,割と普通


    急激な成長や新しいFree-to-Playへの移行が
    危機の原因か


     ところが,順調に成長しているように見えたCrytekに,突如として「倒産危機」の情報が流れるてきた。Crytek UKは現在,発表されたばかりの「Homefront: The Revolution」を開発しているが,ここ何か月かの給与が支払われていないと,イギリスやドイツのメディアが次々に報じているのだ。
     6月に掲載されたドイツのゲーム情報サイトGameStarのレポートでは,「Ryse: Son of Rome」のセールスが予想外に悪く,Crytekの関係者が「頭の上にハゲタカが舞い始めた」と表現するほどだという。

     報道によれば,Crytek UKでは開発者達の流出が続いており,リードプロデューサーやゲームディレクターなど,要職のメンバー達が次々に移籍しているという。離職者数はレポートによって異なり,30人~100人と振り幅が大きいが,いずれにせよ,それが事実なら「Homefront: The Revolution」のスケジュールに影響が出そうな人数だ。
     筆者が知り合いのドイツ人ジャーナリストに聞いたところでは,すでに地元の銀行から融資を受けており,直ちに危険だという状況ではないようで,Crytekも大手ゲーム情報サイトのEurogamerにコメントを送り,今回の「倒産危機」の噂を否定している。

    Deep Silverから2015年内にリリースされる予定の「Homefront: The Revolution」
    Access Accepted第430回:経営危機が囁かれるドイツのCrytek

     Crytekは現在,Free-to-Playタイトルに力を入れている。「Warface」に続いて,Co-opアクションをメインとしたCrytek USA(旧Vigil Games)の「HUNT: Horrors of the Gilded Age」の制作をすでに発表しており,さらに,ブルガリアのソフィアをベースにするCrytek Black Seaでは,MOBAゲームである「Arena of Fate」の開発を進めている。
     セヴァット・イェルリ氏は以前,「我々はもう,Free-to-Playタイトルしか作らない」とまで発言しており,フランクフルトで進められていた「Ryse 2」は,すでに開発が中止されたという。

     「League of Legends」「World of Tanks」のヒットで,欧米ゲーム市場におけるメインストリームの一つとなったFree-to-Playだが,それだけに後発のライバルは少なくなく,「Warface」や「HUNT: Horrors of the Gilded Age」,そして「Arena of Fate」はいずれもCrytekらしい大作感を持った作品ではあるものの,テーマやシステムに新鮮味や話題性が欠けているのは否めない。セヴァット・イェルリ氏の予想どおりの成功を収め,同社の資金源になるかどうかは,正直,フタを開けてみなければ分からない部分が大きいのだ。

     さらに,「CryENGINE」のライセンスビジネスも必ずしも良好とは言えないようで,「Evolve」「Star Citizen」「BATTLECRY」などの期待作が採用を決めているものの,数としてはEpic Gamesの「Unreal Engine」やUnity Technologiesの「Unity」に水をあけられている印象だ。
     ライバルに押される形で最近,ライセンス料を月額制に移行させ,さらにValveの「Steam」との連携を深めることで開発者にアピールしているが,ライバルの牙城を切り崩すにはまだ時間がかかるだろう。

    かなり若い頃に撮影されたと思われるイェルリ三兄弟。中央が長兄でCrytek起業者のセバット氏。(ドイツZaman Onlineより転載)

     「Far Cry」でそれまでの水準を大きく上回る革命的なグラフィックスを実現し,「Crysis」では当時のハイエンドPCでも最高画質でプレイできないという先鋭的なところを見せたCrytek。Sony Computer EntertainentやWargaming.netが買収に向けて動いているという未確認情報もあるが,ぜひこの危機を乗り切って以前のような輝きを見せてほしい。彼らの動向にはしばらく注目を払っておきたい。


    著者紹介:奥谷海人
     4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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