Access Accepted第428回:新作タイトルから見る,欧米ゲーム業界のトレンド
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2014年後半から2015年にかけてリリースされる予定の新作タイトルが出揃った,「E3 2014」。閉幕から約1か月が経つが,出展後にさらに詳しい情報が公開されたゲームも少なくなく,2014年も多数の大型タイトルが我々を待っていることが分かる。というわけで今回は,E3 2014に参加し,新作タイトルや関係者への取材を行った筆者が現時点で感じている,2014年欧米ゲームのトレンドについて紹介したい。
見えてきた,2014年タイトルのトレンド
時が経つのは早いもので,今年もさまざまな話題を提供してくれた「E3 2014」が閉会してすでに1か月近くになる。
Game Critic Awardsを受賞した(関連記事)2K Gamesの「Evolve」を始め,Bungieの「Destiny」やElectronic Artsの「Battlefield: Hardline」,そしてUbisoft Entertainmentの「Rainbow Six Siege」「Tom Clancy's The Division」,Bethesda Softworksの「War Cry」,そして任天堂の「Splatoon」など,さまざまな大型タイトルが展示されたが,大手パブリッシャの一押しタイトルの多くがオンラインでほかのプレイヤーと一緒に遊ぶことを念頭に開発されたものである点が印象的だ。さらに,Sony Computer Entertainmentのクラウドゲームサービス「PlayStation Now」のβサービスが,北米限定ながら7月31日に開始される予定であるなど,ゲームやサービスのオンライン化は確実に進んでいるように思えた。
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展示された“オンラインゲーム”の内容を詳しく見ると,仲間と協力してゲームを進める「Co-opモード」がスポットライトを浴びていることが分かる。とくにUbisoftはほとんどの作品でCo-opを実装しており,上記の「Rainbow Six Siege」「Tom Clancy's The Division」に加え,「Assassin's Creed: Unity」や「Far Cry 4」なども,ほかのプレイヤーと一緒にミッションを進めることが可能だ。さらに,Deep Silverが発表した「Homefront: Revolution」や,Crytek USAの「HUNT: Horrors of the Gilded Age」,Insomniac Gamesの「Sunset Overdrive」など,Co-opをフィーチャーしたタイトルは多い。
こうした傾向は,例えば,据え置き型コンシューマ機のオンライン化が当然のことになり,また性能向上によって,よりリアルなAIの実現が可能になったなど,いくつかの理由が考えられるが,煎じ詰めれば「はやっていて,プレイヤーにうける」からそういうタイトルが増えることになったのだろう。つまり,トレンドなのだ。
というわけで今週は,欧米ゲーム業界は今後どういう方向に進んでいきそうなのかについて,主として筆者がE3 2014で見聞した内容を元に,5つのトレンドに分けて推測してみたい。
より大きく,密度の高い世界
「The Elder Scrolls V: Skyrim」や「Grand Theft Auto V」といった作品には,ゲーマーを虜にする自由な世界が作られており,そのオープンワールドの魅力に取り憑かれたプレイヤーも多いはずだが,「広大なゲーム世界の構築」というトレンドはさらに加速しそうだ。
例えば,Electronic Artsの「Battlefield: Hardline」や「Dragon Age: Inquisition」は,EA DICEの開発したゲームエンジン「Frostbite 3」による広大なゲームワールドを実現している。このほか,Ubisoftのレースゲーム「The Crew」は北米全土を再現し,さらにコナミの「Metal Gear Solid V: The Phantom Pain」やWarner Bros. Interactiveの「Dying Light」なども広い世界が舞台になっている。
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また,単に「広いマップ」というだけではなく,その中に詰め込まれたオブジェクトの密度の高さも格段に向上しつつある。「Assassin's Creed: Unity」では,フランス革命下のパリにひしめく何百人という群衆が表現されているし,前作のマップの35倍の広さになったという「The Witcher 3: Wild Hunt」は,それぞれの場所でNPCが日常生活を送り,見るものすべてに興味を持てるようにデザインされている。
広大な世界を実現するため,マップやオブジェクト,そしてアニメーションやテクスチャなどを自動生成するプロシージャル技術にもさらに磨きがかかり,例えば,Hallo GamesがPlayStation 4向けに開発中の「No Man's Sky」では,オンラインでつながった多数のプレイヤーそれぞれが,自動生成された新しい惑星を発見していくことになるという。
お互いの能力が大きく異なる「非対称型対戦ゲーム」
上記のように,Co-opをフィーチャーしたタイトルは増えているが,はやり「人と対戦するほうが楽しい」というプレイヤーも少なくなく,それがCo-opのトレンドと融合して生まれたのが「非対称型対戦ゲーム」だ。これは,強大なパワーを持つ1人または少数のプレイヤーに対し,ほかのプレイヤー達が協力して対戦するというもので,E3 2014で大きく注目された「Evolve」も,このスタイルを採用している。同様に,アクションRPG「Fable Legends」でも,強力なモンスターに冒険者達が立ち向かっていくという非対称型のマルチプレイモードが考案されているという。
広い意味では,武器や装備をカスタマイズできたり,異なるスキルが使えるタイプの対戦ゲームも「非対称型」なのかもしれないが,それらと大きく異なるのは,目標や勝利条件そのものがお互いに違っているという部分だろう。
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少ないスタッフでハイレベルのグラフィックスを実現
「No Man's Sky」の自動生成技術のように,インディーズゲーム開発者を中心として,いかに「より少ない人数でAAAクラスのゲームを作るか」が検討されつつある。そんな中,新たなゲーム開発技術として注目を浴びているのが「フォトグラメトリー」だ。これは,6月14日に掲載したE3 2014レポートで紹介したポーランドのThe Farm 51が開発中のアクションゲーム「Get Even」にも使用されており,テクスチャのクオリティが格段に向上しているのが分かる。
フォトグラメトリーとは,複数の視点から撮影した写真を使って対象の寸法や形状を計測する技術のことで,その情報を使って3Dモデルを生成するというものだ。「Get Even」の画像を見て,まるで実写のようだと感じた人も多いはずだが,もともとは写真なのだからある意味それは当然なのである。
今回のE3 2014には参加していなかったが,The Farm 51と同じポーランドのデベロッパ,The Astronautsが開発中のアドベンチャーゲーム「The Vanishing of Ethan Carter」にも利用されており,この技術を使ったゲームとしては,そちらが先にリリースされることになりそうだ。
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時代は「パフォーマンスキャプチャ」
インディーズゲーム開発者達が安価でリアルなグラフィックスを模索するのに対して,大手パブリッシャが制作するAAAタイトルで採用されているのが「パフォーマンスキャプチャ」だ。これについては本連載でも何度か紹介しているが,体の動きだけでなく,喜怒哀楽といった細かい表情までキャプチャし,同時に音声も収録する。したがって,専門のアクターだけではなく,そのキャラクターを演じる役者自身がキャプチャの対象になることが多い。映画「ロード・オブ・ザ・リング」で初採用されて以来,さまざまなゲームタイトルでも使われるようになってきた。
専用スタジオや高価な機材が必要になるため,規模の大きなデベロッパでしか採用できないが,E3 2014に出展されたタイトルでは,「Assassin's Creed: Unity」「Metal Gear Solid V: The Phantom Pain」,そして「Rise of the Tomb Raider」などでパフォーマンスキャプチャが使われていた。注目すべきは「Call of Duty: Advanced Warfare」で,パフォーマンスキャプチャのアクターとしてハリウッドスターのケヴィン・スペイシーさんを起用していたのだ。また,音声はないものの,「EA SPORTS UFC」や「Mortal Kombat X」でも同様の技術が使われ,リアリティが大きく向上している。
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いよいよバーチャルリアリティの時代がくるか
E3 2014に出展されていたOculus VRの「Rift」と,Sony Computer Entertainmentの「Project Morpheus」(開発コードネーム)は,本連載を読んでいるような人にはもはや説明するまでもないかもしれないが,バーチャルリアリティ(VR)対応のヘッドマウントディスプレイだ。
Riftについて筆者は,2014 International CESで「Portal 2」と「EVE: Valkyrie」を,またGame Developers Conference 2014で「World of Diving」を,そして今回のE3 2014では「Alien: Isolation」を,という感じで,両機種とも,さまざまなジャンルのゲームのデモを体験してきた。いずれも15分程度のプレイだったが,多くの人が気にする「3D酔い」に陥ることもなく,手元のゲームパッドが見えないことを意識してしまうとはいえ,知らないうちに画面の中の世界へと引き込まれていく感覚には文字どおりの未来を感じた。
今のところ,Riftは300ドル程度,Project Morpheusもその前後の価格帯になると予想されており,この設定がゲーマーにとってどれだけ魅力的に映るのかは分からない。
ただ,価格だけでいえば高価な大画面テレビよりもリーズナブルにゲーム世界に浸れるのは確かなので,新鮮なゲーム体験をしたいというゲーマーのニーズは少なからずあるだろう。Oculus VRは,すでに10万台の開発キットを出荷したと発表しており,個人的には,いよいよVR HMDの時代が来たのではないかと感じている。
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著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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