「聖剣伝説 Legend of Mana」プレイレポート。独特の世界観とディープなやり込みのRPGが現代に蘇る
スクウェア・エニックスは,アクションRPG「聖剣伝説 Legend of Mana」(PC/PS4/Switch)を2021年6月24日に発売する。本作は,1999年にPlayStationで発売されたタイトルのHDリマスター版だ。
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PlayStation時代はさまざまなRPGが発売されたが,「聖剣伝説 Legend of Mana」という印象的な作品があったことを覚えている人も多いだろう。ドット絵のキャラクターと手描きイラストを組み合わせた独特の画面。ワールドマップに町やダンジョンを自由に配置でき,プレイヤー毎に違った世界が生まれる「ランドメイクシステム」。武具やゴーレムの作成といったやり込み要素。宝石の核を胸に持つ「珠魅」や,草の塊に手足が生えたような「草人」,独特の言葉で喋る「アナグマ」,ポットのような魔法生物といった種族が入り交じる不思議な世界観。そして,世界のあちこちで起こる事件に関わっていく,連作短編小説を読むかのようなプレイ感など,さまざまな点で個性的なゲームだった。
そんな「聖剣伝説 Legend of Mana」が,今回22年ぶりに復活したわけである。どこでもセーブやエンカウントのON/OFFといった便利機能が追加され,より遊びやすくなった本作。今回事前にプレイする機会を得たので,プレイレポートをお届けしていこう。
冒険の舞台となる「ファ・ディール」は,見る人のイメージによって姿を変えていく不思議な世界だ。ゲームを始めた段階では,何もない土地が広がっているだけだが,「マナ」の力を秘めた遺物「アーティファクト」を置くと,人々が集う町や,ジャングルや塔といった「ランド」が出現する。これが「ランドメイクシステム」だ。
アーティファクトは「陸にしか置けない」「海にだけ置ける」といった制限があるが,そこさえクリアしていればどこに置くのも自由。つまり,世界のありようはプレイヤーごとに違ったものになる。ランドの配置は敵の強さや店の品揃えに影響を及ぼし,アーティファクト毎に定められた「マナレベル」によっては特別なイベントが発生し……とかなり奥深いが,初心者はまず好きなようにプレイしてみて,2周目以降にこれらの要素を意識してみるのがいいだろう。最初は荒涼とした土地も,ゲームが進むといろいろなランドが並んで賑やかになっていく。オリジナルであるPlyaStationの時代とは違い,今はゲーム機側でスクリーンショットを撮れるため,ゲーム開始直後と終了直前の世界を比べてみるのも面白いだろう。
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そして,ランドには個性豊かなキャラクターたちがいて,プレイヤーは彼らが巻き起こす事件(イベント)に関わっていく。ガッツリと戦闘を楽しめるダンジョン探検をはじめ,戦闘なしに人々に話を聞いて回る幽霊騒動や,異種族の町で彼らの言語を解読しつつのセールス行脚など,イベントの種類や長さもさまざま。連作の短編小説を読んだり,テーブルトークRPGを遊ぶような感覚で楽しめる。
キャラクターたちの台詞がまた秀逸で,ウインドウ1つ約40文字という限られたスペースで個性が表現されているのは見事としかいいようがない。どこかユーモアが漂うテキストと,台詞がない主人公という組み合わせは,ファミコンやスーパーファミコン時代のRPGらしさもあり,2021年の現在ではかえって新鮮に感じられる。
個人的には,とあるシナリオで別れる恋人たちがそれぞれ愛を歌うシーンが印象深い。わずか数文字で男女の恋愛観の違いが表現されており,実に巧みだ。
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戦闘は2Dのフィールドに敵味方が入り乱れる,アクション性が強いシステムだ。プレイヤーが使える武器は「グラブ」「短剣」「片手剣」「片手斧」「大剣」「バトルアックス」「バトルハンマー」「槍」「ヌンチャク」「ロッド」「弓矢」という11種。大剣は攻撃速度こそ遅いが範囲が広く,弓矢は遠くまで飛ぶが攻撃判定は小さいのでしっかり狙わなければいけないなど,それぞれ個性的だ。
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これらの武器と,キャラクターが装備できる「ジャンプ」や「前転」などの特殊アクション「アビリティ」を組み合わせて戦っていくと,新たなアビリティや,武器それぞれの「必殺技」を覚えていく。これらは自由に付け替えができるため,動きのバリエーションがどんどん豊富になる。
例えば,「ガード」と「ダッシュ」のアビリティを組み合わせれば,ガード体勢で突進する「ガードダッシュ」を習得する。これを,敵を掴んで投げる「グラップル」とあわせて装備すれば,身を守りつつ間合いを詰めて一気に投げ飛ばせる……といった感じで,組み合わせを考えるのが面白い。戦うたびに「今度はどんなアビリティや必殺技を覚えるだろうか?」という期待感があり,「このアビリティはどの武器と組み合わせるのが効果的だろうか?」と試行錯誤する楽しさも味わえるのだ。
本作の戦闘はベルトスクロールアクションのように,縦方向に動いて敵の攻撃を回避するのがポイントとなる。つまりは操作テクニックも重要になり,ボス戦などでうまく立ち回れれば爽快だ。
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今回のHDリマスター版では,さまざまな点に変更が加えられている。まず目を引くのが,背景の高解像度化だろう。本作はイラスト的な背景にドット絵のキャラクターを重ね合わせる手法が用いられているが,HDリマスター版では背景が高解像度になった。手描きのタッチがより引き立っているのに加え,3Dゲームのように視点を動かせないからこその大胆なアングルもあり,思わず見入ってしまう。ここに繊細なドット絵が乗せられることにより,絵本を思わせる不思議なゲーム画面が生まれている。
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エンカウントのON/OFFや,どこでもセーブといった補助機能の追加も見逃せない。本作のダンジョンは,繰り返し通る場所に敵が配置されているうえ,試行錯誤を要するパズル的なギミックもあるため,探索に集中できないこともあった。そんなときも,エンカウントをOFFにすれば,敵と出会っても戦闘せずに素通りできるため,ゲームがスムーズに進められる。ボス戦や「敵を全滅させることでドアが開く」といった戦闘絡みのギミックがある場合は,エンカウントをOFFにしていても戦闘が始まるため,ゲーム進行に支障がないのがありがたい。
あわせて便利なのが,どこでもセーブ機能だ。オリジナル版では,マップのあちこちにあるポポイ像でしかセーブできなかったが,今回はどこでもセーブできる。
また,BGMについてはオリジナル版とアレンジ版を選択できるほか,ミュージックモードで視聴することも可能。当時のイラストがギャラリーとして収録されているのも嬉しいところだ。
新たな補助機能が追加されている一方で,オリジナル版の当時,ポケットステーションでプレイできたすごろく風ミニゲーム「リング・りんぐ・ランド」や,2P側コントローラでNPCや異なるデータの主人公を操作して協力プレイできるシステムなど,印象的だったフィーチャーはキッチリ再現されている。外出先で「リング・りんぐ・ランド」を遊んだり,友達の家にメモリーカードやコントローラを持ち込んで2Pプレイしたりといった思い出がある人は,こうした再現は嬉しいのではないだろうか。
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1999年の発売以降,リメイクやリマスターといった機会に恵まれなかったものの,独特の雰囲気とやり込み要素で根強いファンを持つ本作。それだけに,今回のHDリマスターは,後年になってから本作の評判を聞いた人にとっても改めて手に取るチャンスといえるだろう。
「聖剣伝説 Legend of Mana」公式サイト
tag : 聖剣伝説
「聖剣伝説 Legend of Mana」HDリマスター版の“ランドメイクシステム”の情報が公開。バド&コロナ編と宝石泥棒編のキャラクター情報も
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1999年にPlayStation向けに発売された同名タイトルのHDリマスター版となる本作。今回は,本作の特徴とも言える「ランドメイクシステム」の情報が公開されている。ランドメイクシステムとは,イベントなどで入手できる“アーティファクト”をワールドマップに設置することによって,新たな“ランド”(町やダンジョン)が出現するシステムだ。
アーティファクトを置く場所や隣接するランドによって,その土地に出現する精霊やモンスターの強さ,店の品揃えまでもが変化する。
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また,本作のイベントは,すべて1話完結形式となっているが,連続性のあるメインストーリー3編を中心に全68話のイベントが存在し,こちらもランドメイク次第で体験するイベントの数や順番が異なるという。
今回は,その中の「バド&コロナ編」と「宝石泥棒編」のストーリーと登場キャラクターの情報が明らかにされている。アビリティと必殺技を駆使するバトルシステムの情報も合わせてチェックしておこう。
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HDリマスター版「聖剣伝説 Legend of Mana」公式サイト
■ランドメイクシステム
町の住人達と会話したり、イベントをクリアしたりすると入手できる“アーティファクト”をワールドマップに設置すると、“ランド”(町やダンジョン)が出現する。“ランド”には”ランドレベル”と”マナレベル”があり、“アーティファクト”を置く場所や隣接する“ランド”によって、その土地に出現する精霊やモンスターの強さ、店の品揃えまでもが変わる。様々な組み合わせを試しながら、自分だけの世界地図を完成させよう。
アーティファクトとは
いにしえの賢人たちが創り出したと言われる、不思議な力を秘めた工芸品。地図上に“アーティファクト”を置くことで、町やその土地に住む人々など、時空の狭間に忘れられた記憶たちが解放される。
ストーリーとイベント
ストーリーは、いくつものイベントをクリアすることで進行していく。イベントは全て1話ごとに完結するが、連続性のあるメインストーリー3編を中心に全68話のイベントが存在し、“ランドメイク”次第で体験するイベントの数や、順番も異なってくる。
▼イベントの受注
▼イベントの発生中に別のイベントを発生させたりクリアすることも可能
▼イベント終了
▼イベントが終わったら部屋に戻って、サボテン君に出来事を語りかけよう
■ストーリー バド&コロナ編
ミナの町はずれで出会った魔法使いの双子の姉弟で、ある事件をきっかけにマイホームに住み着くことになる。好奇心旺盛な2人は、主人公と一緒に様々な場所へ冒険に出るのを楽しみにしているようだ。
バド
コロナの双子の弟。小生意気でコロナには憎まれ口をたたきながらも、彼女のことを大切に思っている。母の形見である魔法のフライパンを大事に持ち歩いている。
コロナ
バドの双子の姉。活発な女の子で、バドが問題をよく起こすため面倒を見なくてはいけないと思っているしっかり者。バドをいさめる事もあるが、実際には助け合っている。父の形見である魔法のほうきをいつも持っている。
サボテン君
主人公が自宅寝室で世話をするシャイで無口なサボテン。話しかけても何も答えてくれないが、実は主人公の話に興味津々で、密かに想像を膨らませ日記をつけている。本当は歩けるということは秘密だ。
■ストーリー 宝石泥棒編
宝石を命の核として生きる“珠魅”と呼ばれる種族たち。迷子になった真珠姫を探す珠魅の騎士・瑠璃に出会うところからストーリーが始まる。宝石泥棒のサンドラを追いかけていくうちに、珠魅一族の過去や謎、登場人物たちの想いが明らかになっていく。
瑠璃
ラピスラズリ(瑠璃)を核とする珠魅の騎士。気性が荒く、言葉遣いも荒い。同種族の者以外にはめったに心を開かないが、仲間をもとめる気持ちが強く、パートナーの真珠姫を溺愛する。
真珠姫
白真珠を核とする珠魅の姫。心優しくなよやかな乙女で、赤面症である。パートナーの瑠璃と行動をともにする以前の記憶がないせいか、瑠璃を絶対的に信用しており、彼を失うことを何よりも恐れる。
レディパール
黒真珠を核とし、代々の玉石姫のパートナーを務める“玉石の騎士”。戦闘能力も高く、仲間たちからの信頼も厚い。蛍姫の命を救うため旅に出たまま、行方が分からなくなっている。
サンドラ
変装が得意で容姿も美しい宝石泥棒。華麗な盗みのテクニックで輝きのある宝石のみを狙ってきたが、近頃は珠魅を襲い核を奪う”珠魅殺し”に手を染めているという。
■バトルシステム
ランド内に生息するモンスターとは、エリアエンカウントでバトルが開始する。そのエリアのモンスターを全滅させることで次のマップへの移動が可能になる。バトル勝利時にはHPも最大まで回復する上、もし倒されてしまっても同じマップからコンテニューができるので、積極的に戦いに挑もう。
アビリティと必殺技
ジャンプ、ガードなど基本的なアクションを装備してバトルを繰り返すと、新たなアビリティを習得する。さらに、アビリティを使いこむことで武器ごとに異なる強力な必殺技も習得できる。
主人公が装備できる武器は全部で11種類。攻撃能力以外にも、装備する武器によってバトル中の移動速度やレベルアップ時の能力値の上昇量も異なる。
魔法
バトル中に魔法楽器を使用すると、8つの属性を司る精霊たちの力を借りて強力な魔法を使用することができる。楽器は町などで購入できるほか、原料を集めてオリジナル製品の作成も可能。
人のフィルターがゲームを形作る。「聖剣伝説 RISE of MANA」プロデューサーの小山田 将氏とシリーズ生みの親である石井浩一氏へのインタビュー 3
携帯アプリ版「FF外伝」では,当時の自分ともう一度向き合いたかった
小山田氏:
こうして,あらためて石井さんの言葉を聞くと,本当に勉強になります。新しい「聖剣伝説」シリーズでも,そういった表現を目指したいですし,ぜひ石井さんにも見ていただきたいです。
石井氏:
小山田君には本当に「そこまで好きになってくれてありがとう」という気持ちですね。そして小山田君が腹を括って作った「聖剣伝説RoM」が,実際にプレイヤーさんに喜ばれている。それはうれしいことですし,感謝もしています。
これだけ「聖剣伝説」に愛を注いでくれるのですから,なるべくしてプロデューサーになっているのでしょう。また「聖剣伝説RoM」の評判に浮かれることなく,次に向けて考え始めているところを見ても,小山田君を推薦してよかったと思います。
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4Gamer:
石井さんが小山田さんから携帯アプリ版「FF外伝」の企画を初めて聞いたとき,どう思われましたか?
石井氏:
「新約 聖剣伝説」が「FF外伝」とは少し違う内容でしたからね。「FF外伝」のファンは,あのときの感動をカラーで味わいたいと思っていた……と言うより,小山田君自身が味わいたかったんだろうと思いました。自分も,自分で遊びたくなるゲームを作りたいですから。「FF外伝」のときは,これで会社を辞めてもいいとさえ考えていたんです。
4Gamer:
そこまで想いを込めていたと。
石井氏:
その一方で,もう少しスクウェアに残ってゲームを作ってもいいかなと思えたのも,「FF外伝」を作り,さまざまな人達が最後まで遊んでくれたからでした。たとえば,社内でモニターをやってくれたゲーム初心者の女性からは,エンディングで泣いてしまったという感想をもらいましたし。
そういう意味では,小山田君の話を聞いて,「FF外伝」をそのままの形で遊んでみたい,あのときの自分と向きあってみたいとも思いましたね。プレイすることで,あのときなぜ自分がこうしたのかというところを理解できるんじゃないかと。
4Gamer:
なるほど。クリエイターの皆さんは,そういう気持ちを抱くものなんでしょうか。
石井氏:
おそらくですが,自分で作ったゲームをそういう目線で遊ぶ人はあまりいないと思います。自分もやってみたくなるのは「FF外伝」だけです。
何しろ「FF外伝」のときは自分の作業量が多かったですからね。ワールドマップを方眼紙に描き,それを切り貼りして不都合がないか確認したり,ドット絵も自分で手直ししたり。あのときの自分の熱量やエネルギーに触れてみたい……というか,あのときの自分に会いたいというのが近いかもしれません。
4Gamer:
石井さんのクリエイターとしての原点の一つが,「FF外伝」であると。
石井氏:
初めてイメージを統一できたタイトルということも大きいですね。当時の「FF」シリーズは,天野喜孝さんにイメージイラストをお願いしていましたが,ゲームの中は別のイメージでしたから。
4Gamer:
今振り返ると,「FF外伝」のスタッフには,イトケンさんや北瀬佳範さんといった,のちのスクウェア・エニックスに欠かせない人材が名前を連ねていますが,全員,石井さんが選出したんですか?
石井氏:
いえ,基本的には坂口さんが,新人の中から「これくらいいれば大丈夫だろう」と選出したんです。新人じゃなかったのは,自分と渋谷さん(渋谷員子氏)だけ。ただ,振り返ってみると,必然だったんじゃないかなと思います。一緒にやるべくしてやったという,人の縁のようなものは感じますね。
自分の中では,なぜあのタイミングで「FF」を作ったのか,なぜ「聖剣伝説」を作り,マナや精霊を出すようになったのかといったことも,すべて線でつながっています。
4Gamer:
そのつながりについて教えてもらえますか。
石井氏:
たとえば精霊や属性といった発想は,人間の自然に対する感謝や畏敬の念が薄れている,というのを無意識の中で感じ取っていたからこそ,生まれたのだと思っているんです。そして,ゲーム中に入れた「精霊のおかげで自然の恵みが受けられる」という設定は,周囲からの無償の愛による支えがあるからこそ,自分がさまざまなことを経験できる,ということと同じ構図ではないかと。
4Gamer:
自分が大切にしたいと思ったことが投影されているんですね。
石井氏:
別に,宗教じゃないですよ。ただ,そういった周囲への感謝の気持ちを忘れちゃまずいとは思いますよね。
そんな感じで,無意識にゲーム作りへ取り入れていたことについては,あとから自分でも「なるほど」と思います。
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4Gamer:
お話を聞くほど,石井さんにとっての「FF外伝」は重要な存在ということが分かってきました。
石井氏:
やっぱり「FF外伝」は自分の中で特別ですね。「FF」と,以降の「聖剣伝説」シリーズとの端境にあったのが「FF外伝」だったんじゃないでしょうか。
4Gamer:
「FF外伝」で「FF」の流れを汲んでいる部分というと,キャラやチョコボ,魔法体系がありますけれども。
石井氏:
あとは透明な世界観ですよね。「FF」では,白い山脈を描きましたが,あれはより透明感を表現したかったからです。「FF外伝」でも白黒表示の中で岩壁を白っぽく表現したのは,同じ理由でした。
小山田氏:
フィーチャーフォン版でカラーになるときも,すごくこだわっていましたよね。最初は岩壁をグレーに塗っていたんですが,「初期『FF』シリーズのように白い石灰質のイメージで」と石井さんが修正されたのを覚えています。
石井氏:
岩は大地のエネルギーが凝縮し,結晶化したものというイメージがありますから,そこはきちんとクリスタルによる地脈を表現したいと。
当時のファミコンでは,あまりパレット数が使えなかったんですが,白地に黒を置くとブラウン管のにじみでピンクや黄色,水色なんかがちょっと出て色が増えるんですよ。それをうまく使うために黒の配置を研究したりもしました。スクロールするとにじみの色が変わってしまうのですが,それはそれでいいかなと。
4Gamer:
デザイナー出身ならではのこだわりですね。
石井氏:
いや,実を言うと,自分はもともと企画としてスクウェアに入社したんですが,自分で描いたドットキャラを坂口さんに見せたら採用されたという経緯があるんです。
4Gamer:
それはまったく知りませんでした。失礼しました。どのようなキャラを描かれたのですか。
石井氏:
当時のドット絵のキャラは表情が分からないものが一般的だったんですが,それが嫌で,顔と目を大きくしました。またバリエーションは限られますが,武器を変えられて,アニメーションもしてと。
その中で一番こだわったのは,膝をつくポーズでしたね。キャラを助けてあげたくなるのは,ダメージポーズよりも,膝をついたポーズだと思ったんですよ。そうやって,ある意味趣味的にデザインからドット打ちまでやったのは,「FFIII」の全ジョブが最後です。
4Gamer:
趣味……で,全部やったんですか?
石井氏:
今では当たり前になっている,ジョブごとの魔法以外のアビリティの提案をした後に,各ジョブの設定を自分の中で細部までイメージして、全キャラのデザインとドット打ちをしました。導師の猫耳風のフードが可愛いので,バンザイのポーズも猫っぽくつま先立ちにしたり。ああいったことを一つ一つ調整して作っていました。当時のファミコンやゲームボーイの制限だらけの中で工夫し,何とかイメージどおりのものを表現したいともがいていましたね。その結果,こだわるべき部分や削るべき部分の判断が,自分でできるようになったんじゃないでしょうか。あれはいい修業時代でしたね。
同じ価値観を持つ人が増えれば,「聖剣伝説」の世界も広がっていく
4Gamer:
「聖剣伝説」シリーズは,これまで基本的にコンシューマ機で展開されてきましたね。石井さんは「聖剣伝説RoM」がスマートフォン向けだと聞いたとき,どう思いましたか?
石井氏:
正直,タッチ操作にはあまり向いていないかもとは思いました。しかし実際にサクサク動いているのを見て,考え直しましたね。スマホ市場の中で,こういうゲームがあるという立場を担うタイトルとして,十分な存在だと感じました。
ただ,やっぱり個人的にはコントローラの十字キーとボタンのほうが感情移入しやすいかもしれないという感覚はあります。ボタンを押すという感覚というのは,ただ押しているだけじゃない,特別な何かがありますよね。
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4Gamer:
石井さんが「聖剣伝説RoM」を遊んでみた感想をぜひお願いします。
石井氏:
実はまだしっかりと遊べてないんですよ。自分はAndroid端末なので(笑)。だから,早くAndroid版を出せといつも小山田君に言っています。
小山田氏:
もう社内では,Android版も動いています。2014年夏にはリリース予定ですから,もう少し待ってください。
石井氏:
「聖剣伝説」を愛している人が作った新作が,どんなものになっているのか,楽しみですよね。また小山田君は,ファンが喜んでくれる「聖剣伝説」を作りたいと常々言っているのですが,自分としてもそこは気になるところです。
あとは,自分がいない「聖剣伝説」がどうなるのかを見られるのもいい経験ですね。
4Gamer:
今のゲーム業界は,ファミコン初期から活躍されているベテランクリエイターが,今なお第一線でシリーズ作を作り続けている状況がありますよね。一方で「聖剣伝説」シリーズは,石井さんから小山田さんに引き継がれました。シリーズの生みの親として,石井さんは,どんな気持ちなんでしょう?
石井氏:
自分がスクウェア・エニックスを辞めたとき,一番気にしたのは,もうファンの皆さんがラビとかに会えなくなるんじゃないかということだったんですよ。だから,また皆がラビに会える状況が生まれることの方がうれしかったですね。
そういう意味では,チョコボを手放したときに近いかな。自分の子どもや,自分が作ったキャラクターを他人に託して,たまにどうなったか覗いてみる感じですね。
4Gamer:
まったく不安はなかったんでしょうか。
石井氏:
自分がいないから不安というような発想はありません。ただ繰り返しになりますけれど,最後に誰のフィルターを通したか,誰のカメラで見たかで細かな差は生じます。だけど,結果として,作っている人達の聖剣伝説に対する愛が感じられて,プレイヤーさんが「遊んでみて楽しかった」「また次もやってみたい」と言ってくだされば,それが一番です。
4Gamer:
思い入れがあるという話を聞いていたので,そういう答えが返ってくるとは少々以外でした。
石井氏:
実際,「聖剣伝説DS CHILDREN of MANA」や「聖剣伝説 HEROES of MANA」では,「聖剣伝説」の土壌を育てるという狙いで外注のチームを使いましたが,今回の「聖剣伝説RoM」も,同じような感じで見ています。「ドラゴンクエスト」に「ドラクエモンスターズ」シリーズがあるように,世界観が同じで違う遊びを楽しめる土壌を,「聖剣伝説」でも作りたいと考えていたんですよ。ナンバリングのアクションRPGから入った人も,外伝での別の遊びが好きという人も,同じ「聖剣伝説」の世界が好きという価値観を持つ人が増えれば,それだけ世界も広がっていきますからね。
4Gamer:
なるほど。「聖剣伝説RoM」も,そうした可能性の広がりの一つであると。では,そうやってシリーズが続いてきた中で,石井さんがとくに印象に残っていることを教えてください。
石井氏:
田中さんと一緒にやった「聖剣伝説2」のときは,マルチプレイでアクションRPGを遊ぶというチャレンジをしましたが,親子や兄弟で協力できて,しかも一緒にストーリーを楽しめたことが記憶に残っているという感想をいただくんです。これは本当にうれしいですね。家族とはいえ,年月が経てば,どうしても一緒にいる時間は少なくなります。その中で一緒に「聖剣伝説2」を遊んだ記憶を大事にしてくださっているのですから。
4Gamer:
やはりプレイヤーからの声というのは記憶に残るものなんですね。
石井氏:
実は,オンラインゲームの「FFXI」を作ろうと思ったのも,根底の部分は同じなんですよね。オンラインゲームでは,全然知らない人同士が,お互いを思いやりながら目標を達成した喜びを分かち合えますから。自分がゲームを通じて本当に伝えたかったのはそこなんだよな,と気づいたとき,あらためて「聖剣伝説2」のマルチプレイが持っていた意味を思い知らされました。自分では単なる過去作の一つと思っていましたから。
小山田氏:
「聖剣伝説RoM」でも,石井さんが「マルチプレイできないかな」とおっしゃったので,レイドバトルという形で再現しています。
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石井氏:
自分自身,アーケードゲームのマルチプレイが好きだったんですが,それは一緒に遊ぶ人が変わると,プレイの内容も変わるからなんです。ボードゲームもそうですよね。たとえば「人生ゲーム」なんて,人によって全然遊び方が違う。自分の中には,誰と遊ぶかで遊び方が変わるものこそがゲームという意識があるんですよ。
4Gamer:
確かに,同じゲームなのに,メンバーによって遊び方がガラッと変わりますよね。
小山田氏:
広い意味では,今のソーシャルゲームに通ずる部分もありますよね。「聖剣伝説2」を知らない若い世代に,お互いが顔を合わせて遊べる「モンスターストライク」や携帯ゲーム機向けの「モンスターハンター」が人気なのも同じ理由でしょう。
石井氏:
やっぱり,お互いの表情を見ながら遊べるのがいいんですよね。ボードゲームで一番面白かったのは,相手を負かしたときの表情の変化ですから(笑)。
ゲームに限らず,メールや電話だけではうまくいかなくとも,お互い顔を合わせてきちんと話せばスムーズに事が運ぶ,というケースはたくさんありますし,やはり人と人とのコミュニケーションは,対面が基本なのかなとは思いますよね。オンラインゲームを作ってる人がこう言うのもなんですけれど。
2016年の「聖剣伝説」25周年に向けて,あらためてシリーズを考える
小山田氏:
石井さんは「聖剣伝説」シリーズでも,「FFXI」でも,とにかく考えることが大きいですし,よくこんなアイデアが出てきたなと思うことがたくさんあります。「聖剣伝説2」でも,マルチプレイだけじゃなく,熟練度に応じて絵が変わっていくという要素も,おそらくあれが初めてですよね。
石井氏:
ああ,そうなのか。それは今初めて気づいた。きっと,ほかの人とは違うことをやろうとする天邪鬼が功を奏しているんでしょうね。
小山田氏:
フィーチャーフォン版の移植作業でも,特殊な仕様を再現するために,めちゃくちゃ時間が掛かったんです。たとえば「聖剣伝説2」では「イビルゲート」を使うと,数百分の1の確率で「シャドウゼロ」が走ってくる演出がありますよね。あの発生条件が全然特定できなかったんですよ。
石井氏:
あれは,ただの確率じゃなかったっけ?
小山田氏:
それが違ってたんです。そもそも,その演出があることを知っているスタッフも少なくて,「何か発生したんですけどバグでしょうか?」という問い合わせもありましたね。そんなケースがたくさんありました。
石井氏:
自分で「聖剣伝説」シリーズを作っていた当時はいろいろやりたいことがあって,それでも容量などの関係で入れられなくて,ことごとく削らざるを得なかったんですよね。だから,最初に考えたことの4割も入ればいいほうだなと思っていました。
小山田氏:
そう言えば,「FF外伝」を移植するとき,データの中に「シャドウナイト」の仮面版と人間の顔版があって,「こんなものも仕込んでいたんだ!」と驚きました。
4Gamer:
ひょっとすると,シャドウナイトが仮面を取るストーリーも考えていたわけですか。
石井氏:
そうです。何だか懐かしいな。あの頃は若かった(笑)。それと同時に思い出すのは昨年亡くなったイラストレーターの磯野さんですね。毎回パッケージイラストをお願いしてきただけにすごくショックでした。実際,磯野さんのパッケージイラストは,色と質感,絵から感じる自然のエネルギーで作品全体を高めてくれたと感じます。
あのパッケージから得られるイメージを持って遊んでもらえるということが,本当に底上げになっていました。今思うと,磯野さんのイラストがなければダメだったんじゃないかな。
小山田氏:
本当ですね。「聖剣伝説RoM」チームでも,「いいゲームを作らなければならない」という気持ちがいっそう高まりました。キービジュアル担当の大楽も,磯野さんの個展に行って「自分の書き込みでは全然足りない」と感じたようで,ギリギリまで手直ししていたんです。
石井氏:
(壁にあるポスターを見ながら)この絵は,いいバランスでまとまっているよね。磯野さんの描いた「聖剣伝説2」のようでもあり,「3」のようでもあり。
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小山田氏:
その磯野さんの個展にも,「聖剣伝説」のファンがたくさんいらっしゃっていました。
石井氏:
ああ,磯野さんも生前,個展に「聖剣伝説」のファンが来てくれるのが本当に嬉しいんだよねとおっしゃってた。磯野さんがそう言ってくれたのも,「聖剣伝説」シリーズをやっていてよかったと思うことの一つですね。
……しかし,こうやって自分が「聖剣伝説」の取材を受けることも,もうないと思っていたから不思議なんですよね。ちなみに「聖剣伝説RoM」の社内での評判はどうなの?
小山田氏:
ビックリするくらい好評です。スマホでアクションRPGを作ることについては,皆,関心があったみたいで,いろんな開発部署の人達から話しかけられますね。「アレよりいいものを作らないと」という,いい意味でのライバル視もされているようなので,本当にありがたいです。
石井氏:
「聖剣伝説3」も,同じ時期の「タクティクスオウガ」に負けていられないという意識で作っていました。「タクティクスオウガ」の松野君(松野泰己氏)も,当時は「聖剣伝説3」を気にしていたと後々本人から聞いたことがあります。
また,こうして「聖剣伝説」のようなシリーズが長く続く一方で,新しいオリジナルタイトルが柱となっていく状況になると,スクエニ内だけではなくゲーム業界全体にとっていい結果を生むんじゃないかと期待しています。
4Gamer:
今,石井さんからゲーム業界の展望についてお話がありましたが,小山田さんが思うところをぜひ。
小山田氏:
「時代がこうだから」ということばかりを考えていると,似たようなゲームが並ぶようになってしまうんですよね。そこで新しいものを作ると,「そこまでできるのか」と周囲も引き上げられる。ですから,大変でしょうけれど,あるラインを飛び越えるものを作り続ける力が必要なんだろうと思いますね。
4Gamer:
「聖剣伝説RoM」の開発でも,そういったことを意識していましたか。
小山田氏:
私自身は純粋なクリエイターではありませんから,実際の作業に関しては,きちんとできる人に任せて,それをチェックしながら「聖剣伝説」らしさをファンの視点から盛り込んでいったという感じです。ファンに望まれていることや石井さんがおっしゃることを踏まえて,それでもキービジュアルの点描や,コンポーザーの選出といったいくつかのポイントでは,私自身のわがままを入れましたけれど。
石井氏:
ゲーム作りで一番大事なのは,ビジョンを語ることです。具体的に物を作る人達が,一緒にやりたいと思えるようなビジョンを提示できるかどうか。それがきちんとできれば,立派なクリエイターだと思います。
小山田氏:
「聖剣伝説RoM」に関しては,「聖剣伝説2」を今の技術で再現し,かつ1人でも多くの人に遊んでもらえるよう,Free-to-Playを採用するというところをブレずにやってきたことが評価につながったんじゃないでしょうか。
ただ,主人公のキャラクターデザインは大変でしたね。シリーズで確立されたビジュアルがあるので,なかなか決まりませんでしたが,主人公が世界とは異質な存在というところから,思い切ったデザインにしています。ここは新しい要素でありつつ,シリーズとして守りたい部分も残せたんじゃないかと,自分では考えています。
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石井氏:
そうやって小山田君が,誰よりも「聖剣伝説」を愛しているという自分を信じられれば,これからも大丈夫じゃないかな。
4Gamer:
それでは最後の質問となります。2016年には「聖剣伝説」シリーズも25周年を迎えますけれど,思うところをぜひお願いします。
石井氏:
しばらく出ていなかったので,実はピンと来てないんですけどね。でも,こうして小山田君を中心にシリーズが復活したからには,いい感じで皆さんに「聖剣伝説」を楽しみにしていただける状況を作りたいですよね。
4Gamer:
小山田さんからは,先ほど「聖剣伝説」のナンバリングタイトルのリリースも視野に入れているという話がありましたが。
小山田氏:
そこは,ファンの皆さんが望まれる形で進めようと考えています。皆さんが納得されないようであれば,それは「聖剣伝説」ではないですし。開発過程では,石井さんから「『聖剣伝説』魂」を注入していただくようなフェーズも設けようと。
また「聖剣伝説RoM」やそれ以降のシリーズをコンシューマの携帯機でも出してほしいというリクエストもいただいています。ご要望が多ければ,さまざまな形で展開することを検討したいです。
4Gamer:
期待しています。本日は,長い時間,ありがとうございました。
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「聖剣伝説 RISE of MANA」公式サイト
テーマ : ■■■ニュース!(ゲーム&業界)■■■
ジャンル : ゲーム
tag : 聖剣伝説
人のフィルターがゲームを形作る。「聖剣伝説 RISE of MANA」プロデューサーの小山田 将氏とシリーズ生みの親である石井浩一氏へのインタビュー 2
当時のゲーム開発にあった風潮を打ち破ろうとした「聖剣伝説」
4Gamer:
それでは,ここから「聖剣伝説」の生みの親である石井浩一さんも交えて,シリーズを振り返りつつ,今後についてもお話をうかがいたいと思います。あらためて,よろしくお願いします。
それでは,石井さんがかつて「FF外伝」を作った経緯などを教えてもらえますか?
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もう「ファイナルファンタジー」(以下,「FF」)シリーズに関わりたくなかったんですよ。「FFIII」まで作って,初代「FF」の頃から構想していた召喚魔法もようやく出せた。今後は,ある程度システム的に踏襲されていくと考えると,自分の中で新しいものをクリエイトできる感じがしなかったんですよ。自分としては,もっとチャレンジしたかったんですよね。
4Gamer:
後ろ向きに,「やりたくない」と思ったわけではないんですね。
石井氏:
私は初代「ゼルダの伝説」が好きなんですが,それはゲームでも世界を表現できると気づけたからなんです。そこで「FF」では,自分なりの世界を表現する手段として,最初に「火」「土」「水」「風」という属性の概念を入れました。そうすることで,「Wizardry」や「Ultima」よりも明確にRPGの世界を打ち出せるんじゃないかと考えたんです。さらに,その時点で5番目の属性として「マナ」を考えていました。
4Gamer:
なるほど。
石井氏:
そんなところに,FFではなくゲームボーイ向けの新作開発を任されたので,もともと自分がやりたかったアクションRPGを作ろうと決めました。
同じアクションRPGの「ゼルダの伝説」は,傑作ではあるものの難度が高めで,女性や子どもが最後まで遊べていないという状況がありました。個人的に「面白いのだから,ぜひ最後まで味わってほしい」と思っていましたので,自分で作るなら誰でも最後までストーリーを堪能できるシステムにすることも決めていました。
小山田氏:
「FF外伝」は,当時小学3年生だった私が初めてクリアしたゲームですから,まさに思惑どおりですね。
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そしてストーリーは,“切ない話”にしようと考えました。いわゆるバッドエンドのような展開も入れたいと。当時,それはタブーというか,ダメだろうという雰囲気がありましたから,結構なチャレンジでしたね。「FF」でも登場人物が途中で殺されてしまうという展開がありますが,「FF外伝」の場合,自分の中での位置づけがまた違うんですよ。
4Gamer:
確かに「FF外伝」は,一緒に冒険する人と出会っては別れていくという展開ですし,ラストもハッピーエンドとは言いづらいものでしたよね。ゲーム全体に流れている,もの悲しい雰囲気が独特でした。
石井氏:
人というのは,一人で生まれ,一人で死んでいくもので,誰かとの出会いもまた,いずれ別れることを前提としています。そのとき,お互いに高めあえる存在だと認めることができたら,相手の気持ちを尊重するようになりますし,大事な存在として心に残るでしょう。
助けようと思っていた女の子と最後に別れなければならない展開は,表面的に見れば酷い話かもしれません。けれども,自分の運命ややるべきことを考えて,その子なりに結論を出したわけです。自分が大切に思っている相手の意思を尊重するなら黙って見送るしかない。
「FF外伝」は成長の物語で,その節目には出会いと別れが必要なんです。だからエンディングは,最初からあのような終わり方にしようと決めていました。
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4Gamer:
当時は「あんなに頑張ったのに,なぜこんな結末が……」などと思いましたが,こうして石井さんの話を聞くと,いろいろと納得できます。
石井氏:
セリフにも重みを持たせようとしていました。もっとも,当時はデータ容量の関係であまりしゃべらせることができませんでしたが(笑),逆にそこがうまく働いたんじゃないかな。
また,「無償の愛」や,「相手に対する思いやり」といったものを表現するために,あえて言葉が交わせないチョコボを利用しました。チョコボは主人公にとって「そばにいてあたりまえの存在」でしたが,最終的に主人公と別れて,仲間のもとに帰ります。あれも主人公がチョコボにとって何が幸せなのかを考えた結果です。
「FF外伝」では思いやりを表現すること,そしてそれを直接的にやらなくとも伝わるかどうかを試したかったんです。
4Gamer:
直接的な表現を避けたのは,なぜでしょうか。
石井氏:
説明しすぎると,安っぽくなってしまいますから。奥底に想いが秘められているストーリーは,受け手が成長するにつれて,印象が変わっていくと思うんですよ。子どもの頃に触れたときと,大人になってからでは,人生経験が異なりますから,当然物事の見え方や捉え方も変わります。人生経験が少ないと自分の気持ちを優先しがちですが,成長すると相手はこういう気持ちなんじゃないかと考えられるスキルが備わってきますから。
4Gamer:
確かにそうですね。久しぶりに「FF外伝」をプレイしたくなりました。
石井氏:
私は「ニュー・シネマ パラダイス」が好きなんですが,あれも年齢を重ねるごとに面白さが変わっていく映画じゃないでしょうか。あのお爺さんの気持ちが分かるようになってきたのは,自分自身が親になったからかな,とも思いますね。「FF外伝」では,ゲームでもそういうことが表現できるかどうかにチャレンジしました。
小山田氏:
私は当時の石井さんが狙っていたところにすべてハマっていますからね。それがこうして石井さんとご一緒することにつながったんじゃないかと思います。
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4Gamer:
「FF外伝」の開発中,苦労したのはどういった部分でしたか。
石井氏:
自分が若かったこともあって,見積もりが甘かったですね。やりたいことが多すぎて,使える時間と人数では実現が無理だということが分からなかった。
4Gamer:
実現できなかったものには,どんなものがあったんですか。
石井氏:
たとえば,ゲージがMAXになったときに魔法を撃つとサラマンダーが現れて敵全体にダメージを与えるとか,さらに長押しするとイフリートが出てきて……みたいなことを。でもどう考えてもゲームボーイでは無理ですよね。
4Gamer:
ああ,それは面白そうですね。確かにハードウェア的に無理そうですが。
石井氏:
ともあれ当時から,自分の中には,ハードの制約を意識しないイメージがあったんですよ。だからFFの開発では,坂口さん達から「石井は,データをやらなくていい」と言われていたんです。制約を意識するとアイデアも抑えられてしまうと考えてくれていたようで。「石井の無茶なアイデアを,何とか形にするのがオレ達の役目だ」と言ってもらえたのは,ありがたかったですね。
4Gamer:
差し支えなければ,無茶なアイデアが通った例を教えてください。
石井氏:
初代「FF」の話ですが,バトルシーンの背景ですね。自分としては,どういうところで戦っているのかをきちんと見ながら遊んでほしいと思っていたのですが,背景がなければ,そのぶんモンスターのデータを増やせるわけです。そこで坂口さんとは,相当やり合いましたね。結局,背景は残せたのですが,その代わり,朝昼晩の要素はなくなりました。
4Gamer:
え,第1作の時点で朝昼晩の概念を考えていたんですか。
石井氏:
ええ。結局,それがきちんとした形で実現できたのは「FFXI」になりましたが。
最後に誰のフィルターを通したかでゲームは変わる
4Gamer:
「聖剣伝説」シリーズは,各タイトルごとにシステムやビジュアルがかなり異なっているのが特徴的ですね。
石井氏:
世界観もそれぞれ,微妙に違います。当時,シリーズ作品ではシステムなどを踏襲するのが当たり前という雰囲気がありましたけれど,自分の中では,常に違うシステムで作っていこうと考えていました。実際に,「FF外伝」は,かなりアクションに近いアクションRPG,「聖剣伝説2」は命中率と回避率を入れたパーティアクションRPG,「3」はコマンドシステム寄りです。
4Gamer:
シリーズ作品としては珍しいですよね。
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ファンの感想を見ても,タイトルごとに層がはっきり分かれています。この分かれ方は,「FF」や「サガ」といったシリーズ別のファン層の違いに近いんですよ。ですから,仮に「聖剣伝説2」のシステムを踏襲した続編を自分が作るとしたら,「聖剣伝説2-2」になるでしょう。
そういう意味では,ナンバリングよりも,最初から「~of MANA」というサブタイトルを付けておいたほうがよかったのかなと思いますね。
4Gamer:
タイトルを見ただけで,別のゲームだということが分かるようにするわけですか。
石井氏:
ええ,自分は天邪鬼(あまのじゃく)なので,人とは違うことをやりたくなるんです。世間が3Dグラフィックスのほうを向いているときに,敢えて2Dを追求した「聖剣伝説LOM」を作ったりしていますし。あれは,「FF外伝」に込めた思いを感じていただいたファンからの手紙が届いて,もう一度「聖剣伝説」をやったほうがいいのかなと考えて作り始めたタイトルでした。
4Gamer:
そのように多彩な内容となった「聖剣伝説」シリーズですが,石井さんにとっての「聖剣伝説」らしさを言葉にするとどうなるのでしょうか。
石井氏:
自分がいるか,ですね。これは何も傲慢な話ではなくて,ゲームは想いや目指しているもの,大事にしているものといった特定のフィルターを通っているかどうかで,出来上がるものが変わるからなんです。話のノリ,絵的な部分のノリや色合い,ゲームを立ち上げたときの雰囲気といったものは,携わった人によって変わります。人にはクセがありますから,デフォルメの線の具合や,セリフのちょっとしたニュアンスの違いで,与える印象も変わるわけです。そこを,きちんと最後のフィルターとして監修したかどうかなんですよ。
4Gamer:
なるほど。人によってゲームが変わるという意味でいうと,石井さんは,当時の社内でどんな存在だったのでしょうか。天邪鬼というお話もありましたが。
石井氏:
先ほども触れたようにアイデアよりの企画でした。社内では坂口さん(坂口博信氏),田中さん(田中弘道氏),河津さん(河津秋敏氏)など,みなさんに護られてきました。「石井が何を発想するのか,気になる」とも言ってもらえていましたね。
4Gamer:
当時の開発で,何か思い出に残っていることはありますか?
石井氏:
今だから話せるところでは,「聖剣伝説3」のエピソードがあります。あのタイトルは,6人の主人公を出して,表面的には「トライアングルストーリー」と銘打ちましたが,実は自分なりに「ロマンシング サガ」をやってみたらどうなるかというチャレンジだったんです。
4Gamer:
おお,それは気になる話ですね。なぜ「ロマンシング サガ」を?
石井氏:
そもそも「フリーシナリオ」は,私と河津さん2人で飲んでいるときに「育った環境や立場の違う主人公たちが、それぞれの目的をもって世界中を動くゲームをつくりたい」と私が話したのがきっかけでした。「じゃあ,2人でそういうゲームを一緒に作ろう!」と約束して,河津さんは「Sa・Ga2 秘宝伝説」を終えて待ってくれていましたが、私は「FF外伝」の開発が延びたため,一緒に作れなくなってしまったという経緯があります。
4Gamer:
なるほど。具体的には,どのようにして「聖剣伝説3」に「ロマンシング サガ」的な要素を入れたのでしょうか。
石井氏:
たとえば人間の性格は,立場など周囲の環境によって決まっていきますよね。そう考えたとき,心に空いた穴を埋められないキャラ達が,ゲーム内で周りに巻き込まれながら成長していく様子を描いてみようと考えたんです。最初に6人のキャラを明確に立て世界観をしっかり作り込み,ビジュアル的にはその頃流行り始めていたコスプレの要素も入れて,キャラに対する感情移入を高めました。
4Gamer:
なるほど。
石井氏:
さらにほかのネタばらしをすると,「FFXI」のデータ設計などは,ことごとく「聖剣伝説LOM」から持っていったものです。もともと「聖剣伝説LOM」自体が,オフラインで遊ぶオンラインRPGというつもりで作っていましたから,そのときのシステムが相当「FFXI」に生かされていますね。現在,「FFXI」のプロデューサーをやっている松井君(松井聡彦氏)も,「聖剣伝説LOM」チームにいましたし。
4Gamer:
「FFXI」のために,一度離れた「FF」シリーズに戻った形になるわけですよね。そのとき,石井さん自身はどういう気持ちだったのでしょうか。
石井氏:
よく「『聖剣伝説』をやめて『FF』に戻った」と言われますけれど,自分の中では,物作りに対する姿勢はまったく変わっていませんし,ある意味,「FFXI」はその集大成だったと言えます。
たとえばその頃の「FF」シリーズでは召喚獣や魔法のネーミングに関する設定がバラバラだったんですが,「FFXI」では,自分を中心としたスタッフ達でゼロから作り直すことにしました。
4Gamer:
石井さんの世界観におけるこだわりが以前よりも反映されるようになったと。
石井氏:
周りからは「そこまで作らなくてもいいんじゃないか」と言われることありましたが,「絶対必要になるから」と,とりあえず作らせた設定や要素もあります。オンラインゲームのように長く遊ぶゲームでは,一見無駄に見えても,そうではないものがあるんですよ。遊んでいるうちに「実は,こうなっているんじゃないの?」という疑問が湧いてきて,やがてそれが事実だったと判明する。プレイヤー同士でそういった会話を交わす楽しみ方もあるんです。それは「聖剣伝説」も同じです。
4Gamer:
なるほど。
石井氏:
そうした,会話の糸口となる隙というのは,あらかじめクリエイターが用意していたからこそ存在するんです。「聖剣伝説LOM」の公式設定資料はシナリオスタッフ達のおかげでかなり詳細なものになっていましたが,それを読んでからゲームをプレイすると,イメージを補完され,ゲームへの思い入れも深くなる。思い入れが深くなるから,より好きになる。それは,自分自身がかつて「FF」シリーズを手がけてきた中で気付けたことです。
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4Gamer:
そういった作り込みはゲーム以外のジャンルでも重要になりそうな気がします。
石井氏:
ともあれ「FFXI」は,自分で胸を張って「FF」だと言える存在ですね。なぜ魔法があり,精霊がいるのか,なぜ星座があるのか……といった設定を含めて,すべての設計においてリアリティのある世界を目指しましたから。だから天野さん(天野喜孝氏)に描いていただいた「FFXI」の金屏風にも,一切嘘はありません。あれは自分がすべて天野さんに説明しながら描いていただいたものだからです。プレイヤーが実際に金屏風を見ながら「FFXI」をプレイしても納得できます。召喚獣も,すべて正しい位置に配置されていますから。
テーマ : ■■■ニュース!(ゲーム&業界)■■■
ジャンル : ゲーム
tag : 聖剣伝説
人のフィルターがゲームを形作る。「聖剣伝説 RISE of MANA」プロデューサーの小山田 将氏とシリーズ生みの親である石井浩一氏へのインタビュー
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これまでコンシューマ機向けを中心にリリースされてきたシリーズだけに,本作の発表時には「新作はスマホ?」という戸惑いの声も上がっていたが,それを覆すように,3月6日の配信開始から2か月足らずで登録者数が100万を突破するなど,好調な滑り出しを見せている。
今回,4Gamerでは,プロデューサーを務めるスクウェア・エニックスの小山田 将氏に,本作開発の経緯や意図するところなどを聞いてみた。インタビューの後半では,「聖剣伝説」の生みの親である石井浩一氏を交えて,シリーズ作品の開発エピソードや,今後の展望などについての話題も展開されている。
しばらくリリースが途絶えていたシリーズが復活した理由や,石井氏が当初構想していたものの,ハードウェアの制限で断念した初代「聖剣伝説」のシステム,そして「聖剣伝説」シリーズと,「ロマンシング サガ」「ファイナルファンタジーXI」といった作品との意外なつながりなど,興味深い話がいくつも飛び出したので,かなりのボリュームではあるが最後まで読みこんでほしい。
「聖剣伝説 RISE of MANA」公式サイト
「聖剣伝説RoM」プロデューサーはシリーズ生みの親も認める後継者
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,小山田さんの経歴を教えていただけないでしょうか。
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私はスクウェア・エニックスに入社して以来,約10年間,ずっとモバイル関連の業務に携わっていて,過去にはフィーチャーフォン版の「聖剣伝説 ~ファイナルファンタジー外伝~」(以下,「FF外伝」),やフィーチャーフォン版とiOS版の「聖剣伝説2」などを手がけました。
4Gamer:
それらを開発するにあたって,小山田さんは石井浩一さんと田中弘道さんに,あらためて挨拶しに行ったと聞いたのですが。
小山田氏:
ええ,尊敬するクリエイターですし,お2人の気持ちが入っていない状態で「聖剣伝説」を広げても意味がないだろうと。そこで,きちんと「こういう考えで,こういうことをやりたい」というところを会って伝えました。
4Gamer:
小山田さん自身は,ずっと「聖剣伝説」シリーズのファンだったのですか。
小山田氏:
かなりのファンだと思います。小学3年のとき,「FF外伝」で初めてゲームというものをクリアしたので,とくに思い入れがあります。
ですから,フィーチャーフォン版を作るときは,ゲームボーイアドバンス向けにリリースされていたリメイク作品の「新約 聖剣伝説」をプレイした上で,「新約」ではなく「FF外伝」をやりたいと。なぜそう考えるのかという理由を,ファンとプロデューサー双方の視点からきちんと文書にまとめて,石井さんにお渡しし,お話させていただいたんです。
4Gamer:
その結果,小山田さんは「聖剣伝説」の“正統後継者”として認められたと聞きました。
小山田氏:
石井さんから「そこまで分かっているなら,任せるよ」という言葉をいただきました。自分から正統後継者などと名乗るのはおこがましいですが,「聖剣伝説」をきちんと発信できるプロデュースを心がけています。
認知度を高めるためにスマートフォンを選んだ
4Gamer:
そうした流れを受けて「聖剣伝説RoM」の企画がスタートしたわけですけれども,本作を開発することになったきっかけを教えてください。
小山田氏:
石井さんと田中さんがスクウェア・エニックスをお辞めになったことで,一旦「聖剣伝説」シリーズはストップしてしまいましたが,私は何かできないかと模索し続けていました。
当時流行していたカードバトルのソーシャルゲームとして展開する案もあったのですが,私としては「『聖剣伝説』のファンが望んでいるのは,それじゃないだろう」と。時代の流れとしてはソーシャルゲームのほうが企画は通りやすいけれど,正統なアクションRPGの流れを汲んだ新作を作りたい,と悶々としていたんです。
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4Gamer:
ファン視点とプロデューサー視点の間で,葛藤があったわけですね。
小山田氏:
そんな頃,弊社の安藤武博から,「ウチの部署に来ないか」と声が掛かって,さらに現在,「聖剣伝説RoM」の開発に参加しているディレクターの八木正人と,アートディレクターの鈴木裕之が「聖剣伝説」をやりたがっているとも伝えられました。そこで2012年7月から本格的に「聖剣伝説RoM」の企画が始まったんです。
4Gamer:
なるほど。ただ,カードバトルなどのソーシャルゲームではなく,アクションRPGとして作る「聖剣伝説」の新作を,スマートフォン向けに展開することについては,どうお考えだったんでしょうか。業務上の立場からすれば自然かもしれませんが,ファンとしては複雑だったのではないかと。
小山田氏:
確かに,その葛藤はありました。しかし,生みの親である石井さんの名前がなくなって,「聖剣伝説4」でいったん止まってしまったシリーズを認識してもらうために,もう一度名前を広く知らしめる必要があるだろうと考えたんです。とくに若い人達には,名前を知らない,知っていても触ったことがない,という人も多いと感じていたので。
4Gamer:
Free-to-Playモデルを採用したのも,そのあたりが関係しているのでしょうか。
小山田氏:
ええ。やはり認知度を高めるためには,Free-to-Playモデルが定着しているスマホ市場がいいだろうと。
さらに,シリーズの新たなチャレンジということで,「こういうスタイルはどうですか?」とファンに問いかけるという意味もありました。
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4Gamer:
新しいチャレンジという話が出ましたが,開発が始まった2012年7月というと,世間的にはまだブラウザベースのカードバトルソーシャルゲームが大流行していた頃ですよね。
小山田氏:
ええ,それ以外では「パズル&ドラゴンズ」(iOS / Android)と「拡散性ミリオンアーサー」(iOS / Android)が話題になり始めた頃です。
4Gamer:
そういった状況で,ネイティブアプリのアクションRPGという選択は,相当のチャレンジだったんじゃないかと思うのですが。
小山田氏:
そうですね。ですが,このプロジェクトは基本的な設計を企画段階からほとんど変化させずにローンチできました。Free-to-Playに最適化するために,「パズル&ドラゴンズ」などを参考にしたということはありましたが。
4Gamer:
Free-to-Playに最適化と言うと,具体的にはどのようなことを行ったのでしょうか。
小山田氏:
どうやって売上を立てるかという課題は,避けられないものでした。カードバトルならカードを売ればいいのですが,本作ではそうするわけにもいきません。
そこで特別なモーションや特殊効果が付いた武器の販売を考えました。また「聖剣伝説」シリーズにはモンスターを連れ歩くという要素もありましたから,可愛いペットも用意しましょうと。
4Gamer:
それでは,配信を開始してからの「聖剣伝説RoM」自体の反響はいかがでしょうか。スマートフォン向けと発表されたときは,戸惑いの声も挙がっていましたようですが。
小山田氏:
リリース後,多くの方から「きちんとしたアクションRPGになっていて,これは確かに『聖剣伝説』だ」と言っていただけているので,ひとまずホッとしています。
もちろん,ボタンがないスマートフォンゆえの操作性の不満や,コンシューマ機向けにパッケージで出してほしいという要望があるのも認識しています。
4Gamer:
自身がファンである「聖剣伝説」シリーズの新作を手がけることについてのプレッシャーはありましたか?
小山田氏:
それはもちろん。とくに売上の面でのプレッシャーが大きかったのですが,不思議なことに,「聖剣伝説」として認められるものに仕上げる自信だけはあったんです。「ゲームとしては『聖剣伝説』になっているし,面白いと言ってもらえる自信もあるから」と,ずっと言っていましたね。
アクションが再現できないなら,企画自体をなしにしていいと考えていた
4Gamer:
「聖剣伝説RoM」はアクションRPGとしての「聖剣伝説」を目指して開発されたという話が先ほど出ましたが,もう少し具体的なコンセプトなどを聞かせてください。
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石井さんが手がけてきた「聖剣伝説」シリーズは,タイトルごとにスタイルがバラバラで,ファン層もそれぞれ異なっているのですが,「聖剣伝説RoM」では,「聖剣伝説2」を現代の技術で再現することを念頭に置いて,アクションRPGとして成立させることを目指しました。仮にアクションが実現できないようであれば,やらなくてもいい企画だろうと。
4Gamer:
「聖剣伝説2」はミリオンヒットになりましたし,「聖剣伝説」と聞いてまず思い浮かべる人も多いでしょうね。
小山田氏:
「聖剣伝説2」のメインビジュアルを描いていただいたイラストレーターの磯野宏夫さんが2013年に亡くなられたのですが,「聖剣伝説RoM」のメインビジュアルは,社内デザイナーの大楽昌彦に無理を言って磯野さんが描いたような点描の表現をお願いしました。おそらく,ご覧になった多くの人が「聖剣伝説」を思い起こしてくださったのではないでしょうか。
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4Gamer:
では少し話題を変えて,開発作業についても教えてください。本作のグラフィックスはスマートフォン向けとして非常に高いクオリティだと感じるのですが,端末のスペック不足は問題にならなかったのでしょうか。
小山田氏:
正直,ネックにはなっていました。ですから,リリースタイミングが2014年になるだろうと想定し,申し訳ないですけれどもiPhone 4S以降を前提にして開発を進めていたんです。
4Gamer:
操作面でも,小山田さんの大きなこだわりがあったと聞きましたが。
小山田氏:
いかにしてスマートフォン向けタイトルの操作性を高めるかは,iPhone版「聖剣伝説2」の頃からの課題でした。今回,この課題に取り組むにあたっては,直感的なタッチ操作と,バーチャルパッドによる操作の2つを検討したのですが,正直,どちらもあまりよくなかったんですよね。そのうち,「聖剣伝説RoM」の遊びが固まっていく中で,連打プレイでも結構いけると分かったので,開発チーム内ではタッチ操作で行けるだろうということになったんです。
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4Gamer:
ですが,実際には双方が採用されて,プレイヤーが選ぶ形になりましたよね。
小山田氏:
はい。満を持してテスターにタッチ操作でプレイしてもらったところ,「タッチ操作でOK」「バーチャルパッドじゃないと,やる気がおきない」という2つの意見に割れてしまったんです。後者はシリーズ経験者ですね。かつて「聖剣伝説」シリーズを遊んだ人にとっては,コントローラ以外の操作方法だと「聖剣伝説」と感じられないくらいらしいんですよ。
4Gamer:
操作方法まで含めての作品なんですね。
小山田氏:
社内のプロデューサー達のテストプレイでも同じ状況が発生してしまって,あまりにも両者の意見に接点がなかったものですから,苦肉の策として両方実装して,プレイヤーに選んでもらうことにしました。
そうしたら「聖剣伝説RoM」のリリースタイミングぎりぎりで,iOS7対応のゲームコントローラが発売されまして。
4Gamer:
ああ,そうでしたね。
小山田氏:
これ幸いと,対応することにしました。開発の順序としては,バーチャルパッドよりもコントローラ対応が早かったくらいです。実際,コントローラで遊んでもらったら,「ああ,コレだよ!」という反応がありましたし。
4Gamer:
システム面の特徴として,プレイヤーキャラの天使と悪魔を切り替える「転身」がありますけれど,これはどのように生まれたのでしょうか。
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小山田氏:
本作のアクションを考えようとなったとき,ディレクターの八木が最初に持ってきたアイデアです。当初は異なるギミックを持つ2人のキャラを同時に画面に出して,いずれか1人を操作し,もう一方をAIが動かす形を考えていました。
4Gamer:
最初はあくまで2人が一緒に冒険する形だったんですね。
小山田氏:
ええ,ただ,スマホの小さい画面で2人のキャラが常にでていると操作もしづらいですし,仮にどちらかが倒された状態になってしまうと,マップギミックによっては詰んでしまう可能性があります。
そこで転身のアイデアが生まれたわけですが,スムーズにハマったと感じたのは,切り替え時に起きるHPのリカバリーを入れたときでした。この仕様によって,HPを回復するアクションを省略でき,テンポよく遊べるようになりましたね。
4Gamer:
ちなみにプレイヤーキャラの天使と悪魔は,男女それぞれに用意され,計4とおりの組み合わせができますけれども,とくに人気が高いものはありますか?
小山田氏:
まだ,その分析はやっていないのですが,キャラ,組み合わせとも,まんべんなく使われているという印象です。
男女を分けたのは,協力してプレイするレイドバトルのときに,皆同じでは面白くないからなんですが,実を言うと,キービジュアルに描かれていた天使の男の子を女の子だと思う人が多くて……という理由もあったりします。
正統なナンバリングタイトルへの架け橋となる「聖剣伝説RoM」
4Gamer:
「聖剣伝説RoM」の音楽スタッフは,伊藤賢治さん,菊田裕樹さん,下村陽子さん,そして関戸 剛さんと豪華ですね。
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そこは私のファン心理が大きく働いています。最近だと,イトケンさんと下村さんのイメージが強いんですが,やっぱり「聖剣伝説2」「3」の菊田さんも聴きたいよね,という思いから,皆さんに依頼しました。
4Gamer:
実際に仕上がった楽曲を聴いたとき,どんな感想を抱きましたか?
小山田氏:
まさにドンピシャという感じでしたね。プレイヤーさんの反響もよくて,菊田さんにお願いした滝から落ちる場面の曲で「聖剣伝説2」を思い起こしたり,街につくと流れる下村さんの曲を「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」(以下,聖剣伝説LOM)っぽいと感じたりといった反響がありましたので,狙いどおりにいったと言っていいんじゃないでしょうか。
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4Gamer:
それでは音楽以外で,シリーズに携わってきた「聖剣伝説RoM」のスタッフを教えてください。
小山田氏:
先ほど話に出たディレクターの八木は,「聖剣伝説LOM」のストーリーを手がけていました。ニンテンドーDS向けのシリーズでキャラクターデザインを手がけた伊藤龍馬も参加しています。
社外の方ですと,「聖剣伝説 -FF外伝-」「2」の移植版のキャラクターデザインをお願いしたHACCANさんにもご協力いただいています。
4Gamer:
そうなると,シリーズのファンにとっては今後の展開が楽しみになりますね。3月には早くも第11章と第12章が追加されましたが。
小山田氏:
4月には,第13章と第14章を追加します。ずっと遊んでいる方にとっては,「この先,どうなるの?」と思うような展開が待っていますよ。第10章の終わりに登場したフォロンと,ライバルにあたるビブラとトリューの話が本格的に始まります。
4Gamer:
当面は,1か月に2章ずつ追加していく予定でしょうか。
小山田氏:
プレイヤーさんの遊ぶスピードが想定よりもかなり速いので,まとめて配信することも検討しています。あらかじめ準備は進めていますから,状況に合わせて対応します。
4Gamer:
そのストーリーはどのように作っているのでしょうか。モバイル系のゲームだと,プレイヤーの動向に沿って,その都度決めていくという話も聞きますが。
小山田氏:
「聖剣伝説RoM」は,完結する物語を持つゲームを標榜していますから,コンシューマ向けRPGのように,最初に大筋を決めています。
4Gamer:
今後,スマホアプリでも,「聖剣伝説RoM」のように,ストーリー性の強いものが増えていくと考えていますか。
小山田氏:
私個人はそう思っています。かつて遊んだゲームを振り返るとき,やはり物語の面白さを挙げることが多いでしょうし,ゲームの作り手にとってもそれが一番幸せですから。そういう記憶に残るものを作りたいですね。
4Gamer:
少し先の話ですが,2016年には「聖剣伝説」がシリーズ25周年を迎えます。正式なナンバリングタイトルのリリースを期待している人も多いと思いますが。
小山田氏:
ぜひ作りたいと思っていますが,まずは「聖剣伝説RoM」で手応えを確認しつつ,模索していきます。「聖剣伝説RoM」のスマートフォンというプラットフォームは,必ずしもファンの皆さんが求めるところではなかったはずですが,それでも評価してくださるわけですから,望まれているところでリリースすれば,また違う結果になるんじゃないかと考えています。
4Gamer:
望まれているところと言うと……。
小山田氏:
たとえば,コンシューマ機向けのパッケージですよね。据え置き機でじっくりと遊びたいのか,携帯機を持ち寄って皆でワイワイ遊びたいのかなど,どれが一番適しているのかを見極める必要も出てきます。
また「聖剣伝説RoM」をプレイした方の感想を読むと,システム的には「聖剣伝説2」「3」,世界観的には「聖剣伝説LOM」という形で捉えていただいているようなので,ナンバリングタイトルを作るとなれば,また石井さんからいろいろお話を聞くことになると思います。
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4Gamer:
期待しています。それでは,ひとまず「聖剣伝説RoM」を興味を持った人に向けてメッセージをお願いします。
小山田氏:
昔,「聖剣伝説」シリーズを遊んだけれど,最近はあまり……という人に,ぜひプレイしていただきたいですね。また初めて名前を聞いたという人も,これをきっかけに興味を持っていただけるとうれしいです。無料なので,ぜひ一度手に取ってみてください。
テーマ : ■■■ニュース!(ゲーム&業界)■■■
ジャンル : ゲーム
tag : 聖剣伝説