GameVketZeroの「Google Playのインディーズゲームってどんなの?」セッションレポート。開発者が東宝と“戦わないゴジラゲーム”を作るまで
オンラインのインディーズゲームイベント「GAMEVketZERO」にて,2021年5月1日に,開発者向けトークセッション「Google Playのインディーズゲームってどんなの?」が配信された。内容は,Google Playが主催するコンテスト「Google Play Indie Games Festival」についてだ。
「Google Play Indie Games Festival」は,Google Playが主催するAndroid向けインディーズゲームのコンテストで,日本では2018年からスタートし,2021年の開催も決定している。
この日は,Googleで同コンテストに携わる五十嵐 郁氏と,開発者への技術支援を行うロドリゲス・オスカル氏,そして2019年に「ゴジラ賞」を受賞し,今は東宝と協業しているホカマフミシゲ氏が,Google Play Indie Games Festivalの概要やメリットについて語った。
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- 五十嵐 郁氏(Google Japan:Google Play Partnerships)
- ロドリゲス・オスカル氏(Google Japan:Developer Advocate)
- ホカマフミシゲ氏(ゲームクリエイター:Google Play Indie Games Festival 2019『ゴジラ賞』受賞者)
- 宮田大介氏(ゲームクリエイターズギルド主宰:進行)
![]() 写真左から,オスカル氏,宮田氏,ホカマ氏,五十嵐氏 |
日本のGoogle Play Indie Games Festivalは,「日本のインディーズ開発者の創造性や,彼らが作るソフトの高い品質に注目してもらい,世界中のAndroidユーザーに届けたい」という思いで開催されているという。
受賞者にはさまざまな形でサポートが行われるのが特徴で,その姿勢について五十嵐氏は「よってたかってサポートしようとするコンテスト」であると語る。受賞したゲームがGoogle Playでプロモーションされるのに加え,技術サポートや海外展開へのコンサルティングを受けられたり,クローズドな勉強会への参加権がプレゼントされる。また,集英社や東宝といったIPホルダーとの協業(開発費サポートとIPの提供)が可能な賞が用意されているのも特徴だろう。
一昨年に「ゴジラ賞」を受賞したホカマ氏が東宝とのゲーム制作を行い,完成した「ラン・ゴジラ」の日本版が2021年6月に配信スタートするなど,成果も挙がっている。ゲームをフィーチャーするだけでなく,技術サポートや協業などで開発者をステップアップさせる側面があるというわけだ。
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そんなGoogle Play Indie Games Festivalだが,五十嵐氏によると審査ポイントは4つ存在するという。それは「革新性」「楽しさ」「デザイン」「クオリティ」だ。
「革新性」については解説するまでもないだろう。尖ったものや新しいチャレンジなどが評価される。同時に,尖らせるだけでなく,ゲームとしての「楽しさ」や面白さが求められる。そして,ここでいう「デザイン」は,ただリッチなグラフィックスであればいいというものではなく,良く考えられたアートスタイルや,しっかり作られたユーザーインタフェースによるユーザーエクスペリエンスなども含まれる。そして「クオリティ」は,バグやフリーズなどを起こさないゲームとしての確実な動作を指す。つまりは,ただアーティスティックに尖っているだけでなく,ちゃんとしたゲームであることが求められるのである。
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ホカマ氏は,受賞者から見たGoogle Play Indie Games Festivalについて語った。氏が応募したのは,知り合いからコンテストのことを教えられたことがきっかけ。2018年に応募したかったものの,出品するゲーム「相撲巻 - 横綱への道」がギリギリで完成せず,翌2019年にエントリーすることになったという。
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同作は物理挙動をベースにした相撲ゲームだ。相撲をテーマに据えた理由は,氏がもともと和風ゲームを得意としていたのに加え「相撲は皆が知っているのに,ゲームになることがほとんどない。インディーズ開発者として,大手のやらないことをやらなければ」という思いがあったのだという。
ただ,相撲は分かりやすい打撃戦ではなく,ゲームに落とし込むのが難しい組み技や投げ技が主となる。皆が相撲をゲームにしない理由を痛感しつつ,相撲の決まり手全てに対応するべく開発を続けたという。
こうした苦労の甲斐あり,ゲームは2019年6月29日に行われたファイナルイベント(最終審査)へ進出している。あえて大手が選ばない相撲という題材をしっかりゲームにしたことにより,前述した「革新性」「楽しさ」の観点から評価されたというわけだ。
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公式動画

ファイナルイベントでは,会場でホカマ氏自身がプレゼンを行ったが,この時には事前に受講できたトレーニングが役に立ったという。これはGoogle Playが希望者を対象に無料で提供したもの。五十嵐氏は希望者の数を2~3人ほどと予想したが,蓋を開けてみると出席者のほぼ全員が受講したという。
無事にプレゼンを終えたホカマ氏は,東宝から「ゴジラ賞」を受賞し,ゴジラのゲームを作ることとなった。6月のファイナルイベント終了後,7月には企画のたたき台を出したというからかなりのスピード感だ。ゴジラは67年もの歴史を持つIPではあるものの,「東宝さんの懐が広く,自由にやらせてもらった」という。
ゴジラといえば,戦ったり物を壊すというイメージがあるが,「ラン・ゴジラ」ではあえて“戦わないゴジラ”という方向性からアプローチ。戦わないが勝負はさせたいということで,勝負の原点であるかけっこをフィーチャーし,ゴジラと人間の関わり,栄枯盛衰といったテーマも盛り込んだ作品が完成した。“走れゴジラ!ゆるくてシュールな,ゴジラ放置育成ゲーム”をコピーに掲げる同作は,既に海外で配信がスタートしており,好評を博しているとのこと。2021年6月の日本版配信を楽しみに待ちたい。
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公式動

最後にホカマ氏は,Google Play Indie Games Festivalへの応募者に向け「さまざまなゲームが集まるコンテストなので,いかにして審査員の心に残るかが大事。革新性,楽しさ,デザイン,クオリティの4点を押さえるのに加え,キャッチコピーやキービジュアルなどで“他のゲームと比べて自分のゲームはどう面白いか”がすぐ分かるようにすることが重要」とアドバイスを贈った。
その後五十嵐氏から,Google Play Indie Games Festival 2021の開催がアナウンスされた。今年は学生部門が新設され,ゲームの出来映えによっては学生部門と一般部門のダブル受賞も狙えるという。詳細な日程やレギュレーションについては後日改めて発表が行われるとのことだ。
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なお,配信では,五十嵐氏が視聴者からの質問に答えている。応募を考えている人は参考にするといいだろう。
Q:海外受けを意識する必要はあるのか?
A:海外受けは必ずしも必要ではなく,先述の4つのポイントが重視される。一昨年も日本語によるノベルゲームが受賞している。海外で受けることと,審査で重視される「楽しさ」は両立できると考えている。
Q:応募するゲームは,リリースされた完成版でなければならないのか?
A:応募時点でβ版がリリースされており,コンテスト後,一定期間内に完成版が予定されているならOK。
Q:古い作品で応募してもいいのか?
A:今後発表される,今年の応募条件を確認して欲しい。ただ,昨年までのレギュレーションでは“前回のコンテスト締め切り以前にリリースされたものは不可”だったため,今回も古い作品での応募は難しくなる可能性は高い。
Q:他のプラットフォームで発表済みのゲームを,Androidに移植したもので応募しても良いのか?
A:Androidプラットフォームでこれまでに出ていないものであればOK。
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「GameVketZero」公式サイト
インディーズゲームの小部屋:Room#357「This War of Mine」

どうも最近,“壁ドン”の使われ方が間違っているんじゃないかと思えてならない筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第357回は,11 bit studiosの「This War of Mine」を紹介する。本作は,敵軍に占領された都市で,無力な一般市民として過酷な生活を体験するというサバイバルゲームだ。壁ドンってもともとは,隣の部屋の住人がうるさいときに壁を叩いて抗議することだったような……。
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ゲームの舞台となるのは,Pogorenという名の架空の都市。この街は敵軍のスナイパーによって監視されており,逃げ出すことはおろか,昼間に出歩くこともままならない。そんな状況下で,プレイヤーはエリート兵となってバッタバッタと敵を倒していく……のではなく,数人の一般市民を操作してサバイバル生活を繰り広げることになる。
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ゲームを開始すると,あちこち崩れかかった3階建ての建物を避難所にして,ランダムに選ばれた3人の市民が生活している。彼らはそれぞれ,足が速かったり,料理が得意だったり,力持ちだったりといった特徴を持っており,ゲームを進めると,この避難所で一緒に生活させてほしいと申し出てくるほかの市民も現れる。基本的に人手は多いに越したことはないのだが,食料や物資は常にカツカツの状態なので,どのように対処するかはプレイヤー次第だ。
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ゲームには昼と夜の2つの時間帯があり,昼間は避難所で生活必需品を製作したり,食事をしたり,建物の壊れたところを補強したりといったことができる。そして,夜になったら人目を忍んで周辺の建物に侵入し,足りない食料や薬品,その他もろもろの物資などを拾い集めてくるのだ。
本作は全体的に説明が不足しており,ゲーム開始直後に何をすればいいのか分かりにくいが,ひとまず体を休めるためのベッドと,護身用のナイフや鍵開け用のロックピックを作成するための作業台(Metal Workshop)を作っておくといいだろう。
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昼間に避難所であれこれと働いていると,時折,誰かが訪ねてくることがあり,アイテムの物々交換を持ちかけてきたり,瓦礫の下敷きになっている人を救出する手助けをしてほしいといった依頼を受けたりする。条件さえ折り合えば,この時に物々交換で足りない物資を補充するのも悪くない手だ。しかし,ほかの市民の手助けを引き受けた場合,出かけて行ったキャラクターは翌日になるまで戻って来ないので注意してほしい。
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夜になったら,避難所にいる誰か一人を選んで物資の調達に出かけよう。その際は,足の速いキャラクターや,荷物をたくさん持てるキャラクターを選ぶといいだろう。残りのキャラクターは,寝るか,建物の護衛につくかを選択できる。あまり得策ではないが,物資を探しに行かず,全員寝かせてしまうこともできる。ちょっとした病気や怪我なら,しばらく寝ていれば治るのだが,こちらがほかの建物を物色しているのと同様,夜間にほかの生存者から襲撃を受けることもあるので寝てばかりもいられない。
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物資を求めて侵入した建物には,すでに先客がいたり,そこが誰かの家だった場合,住人がいたりする場合もある。中には問答無用で発砲してくる物騒な輩もいるので,人の気配を感じたときは慎重に対処したいところ。人の物を盗んだり,ましてやそのために殺人を犯したりといったことは,あくまで最後の手段……ではあるものの,手に入る食料は少なく,このままでは自分達が餓死してしまうという状況に直面したとき,取るべき手段は限られる。そういえば,あそこの家は老夫婦が2人暮らしをしていたな……。

というわけで,極限状態に置かれた人間の心理をイヤというほど実感させられる本作。筆者もゲーム内のこととはいえ,やむなく他人を襲って物資を奪い取ったこともあるが,盗みや殺人を犯せば,プレイヤーだけでなくゲーム内のキャラクターの心理状態にも悪影響があり,罪悪感に悩まされる彼らの姿を見て,ますます自分の罪深さに胸をえぐられてしまう。
果たして,あの老夫婦はその後,無事に生き残れたのか,自分のしたことは本当に正しかったのか,ほかにやれることはなかったのか。なかなか考えさせられるところが多いゲームなので,興味を持った人はぜひプレイしてみてほしい。そんな本作はSteamにて1980円で発売中だ。うう,胸が痛い……。
■「This War of Mine」公式サイト
http://www.11bitstudios.com/games/16/this-war-of-mine![]() |
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